※2010映画 ウル/トラ/マン/ゼロの旅の道中設定
ジャンバードのコントロールルームで、静かに読書をしていたエメラナの耳に今日もまた凄まじい怒鳴り声が届いた。
読み掛けの本を勢いよく閉じて、エメラナは立ち上がる。『いつものあれでしょう』と告げるジャンバードの声を無視して、問題の場所に行けば……
「だぁかぁら! 便所掃除はゼロの仕事だって言ってんだろ?!」
「あ~、わぁるかったって。明日辺りやるからさ……」
「それ昨日も一昨日も一週間前も言ってただろ!? エメラナだって毎日食器洗いしてるのに、ゼロが何もしないなんてずっこいだろうが!」
地団駄踏んで必死に告げるナオに、対するゼロは耳をほじりながら顔をしかめる始末。
彼の態度を無論、ただでさえ怒り心頭のナオが許せるはずもない。益々顔を真っ赤にしたナオは、その手に持った例の物―――……
「とにかく! 今すぐトイレ掃除しなさい!」
新品のきれいなトイレブラシをゼロの鼻先につきつけ、悲鳴にも似た怒声を発するのだった。
* * *
ジャンバード内での生活が始まり、3人の親睦も深まりつつあった時だった。エメラナはともかく、同乗する2人に深い苛立ちと共にこの船の人工知能が文句を言ったのは。
『操縦はともかく……衣食住に関してはあなた方の責任で行う様に』
何が言いたいのかその時はよく分からなかったが、ナオの解釈によると彼が言いたいのはこうらしい。
―――炊事掃除洗濯、ちゃんとやりなさい。
まぁ、居候させて貰ってるんだから当然だよなと告げるのはナオで、元々生活力のある彼が3人を仕切る事になったのは当然の流れと言えよう。
「じゃあ……オレが洗濯と炊事をやるから……」
どうしても自分もやりたいと告げたエメラナには食器洗い。
そしてゼロに任されたのがこれ、彼にとっては全くと言って良いほど馴染みのない―――トイレ掃除だった。ゼロがそれに「はぁ!?」と大きな声をあげたのは言うまでも無く……
「俺はちゃんと2人の護衛っつー重要な仕事があるだろうが」
「それとこれとは話が別。いっちばんスペース狭くていっちばん楽な仕事を選んでやったんだから、このくらいこなせよな……ま、いっちばん誰もやりたがらない仕事ではあるけど」
「おい」
文句を言いかけるゼロを遮り、「ほい」とナオが彼の手に渡したそれを見た時は、エメラナも思わず首を傾げてしまった。
「……なんだこれ」
「何だか可愛い形をしてますが……武器か何かでしょうか?」
「確かにこれで顔擦られたら痛そうだな」
「2人ともっ……冗談きついだろそれェ」
2人の反応に額をうちながら、ナオはジャンバードの天井に向かって大きく嘆息する。その嘆きはジャンバードにも聞こえたようで、しかし彼はナオの味方にはなってくれなかった。『姫様に汚い物を突き出すな』と怒る始末だ。
ナオはジャンバードの主張を無視し、それを指さしつつ告げた。
「トイレブラシ! これで便器の内側掃除するの。勘弁してくれよ、ゼロ。トイレ掃除も出来ないなんて男っつーより人間としてどうかと思うぜ!」
便所掃除はな、心の対話……自分の心を磨く作業なんだよ……!
天井に向かって喝破するナオを2人とも見ていない。まだゼロの手にある奇妙な形の物体が気になって仕方ない。そんな2人に文句を言うナオに向かって、ゼロはトイレブラシで肩をたたきながら告げた。
「俺達にこんなもん必要ねーんだよ。これで俺の人間性否定されてたまっか」
「まあ、ゼロの国にトイレは無いのですか」
「無い無い」
基本的にゼロ達光の国の超人は、排泄も何も必要ないと言う。彼らに必要なエネルギーは、太陽の様な強い光だと。エメラナとジャンバードがそれに小さく「へぇ」と呟く。
「便利ですねぇ」
『まるで光合成だな』
「ま~な!」
「自慢するほどの事でもねーだろー……」
鼻高々のゼロに、ナオがげんなりした様子で手を横に振る。しかしゼロはそんなナオの言葉など何処吹く風だ。ナオにトイレブラシを押し返して、ふんぞり返って見せる。
「ってな事で俺にこれは必要ない。俺がやるのはおかしい」
「ラン兄貴の体使ってるからにはそーは言わせねーぜ。郷に入っては郷に従え! とにかく一番楽な仕事なんだから、ちゃんとやってくれよ、な!」
とん、と押しつけるようにトイレブラシを渡して、ナオは腕まくりをしながら歩き出す。
「まずはブリッジと寝室の掃除と……」と忙しなく動き始める彼の背中を、この時ゼロは何だか納得いかない様子で見つめていたのを覚えている。
―――そして、あの日から既に一週間……今に至るわけである。
再び手に持たされたトイレブラシに、ゼロは頬を掻きながら顰めっ面をして見せた。憤然やるかたないと言った様子で、自分の仕事をしに行ったナオはもうここにはいない。
深いため息をついたゼロに、エメラナは小さく尋ねた。
「ゼロ、トイレ掃除は嫌なのですか?」
「そうじゃねーよ……まぁ、確かにメンドイけど……」
後ろ頭を掻きつつ、ゼロはぽつりとエメラナの言葉に返す。
かと思うと、ふとエメラナの方を見て……不意に、そっぽを向いた。
「―――あのさ、エメラナ」
「……はい」
彼が何か尋ねようとしているのを感じて、エメラナは胸の前で手を合わせ一歩彼に近づく。そんなエメラナをちらりと見つつ、ゼロはもそもそと尋ねた。
「……俺って、もしかして……お前らの役に立ってない?」
彼がどうしてそのような質問をするのか。あまりに愚問でエメラナは一瞬反応を忘れた。
その沈黙に慌てたのか、ゼロが捲し立てるように告げる。
「いや、その……俺ってぽんぽん元の姿に戻れるわけじゃねーし、お前達の生活とか全然知らねーし……手助けするとか偉そうな事言ってるワリには、あまり役に立ててねー様な……」
「そんな事ありません」
常識が無いのはお互い様だ。自分だってナオにはかなり迷惑をかけている。
しかしゼロが役立たずだなんて……そんな事はあり得ない。
「ゼロ無くして今の私たちはありません。ゼロもナオもやることがあるのに、こうして危険を顧みず私に協力してくれている……ゼロは体を張って私たちを守ってくれている。ゼロが役立たずなんて事は絶対にありません」
何とかこの想いを伝えようと、必死に言葉を繋ぐ。ゼロへの感謝の気持ちを表現しようと、ありったけの気持ちを込めて告げる。そんなエメラナを見て、ゼロが不意に苦笑を漏らした。
「サンキュー、エメラナ。だけどさ、ナオはそう思って無いんじゃないかって……」
再びゼロの顔が翳り、不意に彼は空いている自分の手を見つめる。
「―――本当はナオ……早くランに戻って来て欲しいんじゃねぇかな……」
今借りている人間の体―――ナオの話によれば、彼の命を救うために今ゼロは“ラン”という青年に憑いている……無論、兄を思う気持ちもあるだろう。けれどそれは、ゼロが早く立ち去って欲しいと言う気持ちとはまた別の話だ。
「お兄さんの事を想うのは当然の事です。……でも、ナオだってゼロの事、役立たずなんて思ってません」
これも絶対だ。
ナオの気持ち、同じこの宇宙で生きる小さな人としてよく分かるのだ。
エメラナはゼロに安心させるよう、優しい笑みを浮かべて告げた。
「ナオはきっと、ゼロに私たちの事……もっともっと知って欲しいのです」
生まれも違う。種族も違う。ましてや全く別の宇宙からやってきた……光の巨人、ゼロ。自分たちの事など無関係なはずなのに、それなのに懸命に守ってくれる。全力で助けてくれる。
そんな優しい彼だからこそ、もっと彼の事を知りたいし……自分たちの事だって、分かって欲しい。
少しでもゼロに近づきたい―――ナオの気持ち、エメラナにはよく分かる。
ゼロがエメラナを見つめて、そうしてふと唇を噛む。
本当に? と確かめている様でもあって、ちょっと迷子の様な表情のゼロが可愛いと想ってしまった。何だかとっても不安そうなゼロが……とても。
エメラナは頷きながら続けた。
「私もそう。ゼロにもっと私たちの事を知って欲しい。こんな……戦いばかりの中だけれど、私たちの平和な日常も知って欲しい。もし、もしゼロが……」
―――故郷に帰ってしまう時、何時までも私たちの事を覚えていてくれる様に……
その言葉を口にしようとした時、エメラナの胸が不意に痛いほど強く締め付けられた。
一瞬息を呑むほどに切ない想いが、エメラナの心臓を鷲掴みにした。
ゼロはそんなエメラナに、一瞬怪訝な顔をする。
黙り込んでしまったエメラナの肩に、彼の手が伸びた―――しかしこの時。
……けたたましい警報が鳴り響き、はっと2人は辺りを見渡す。
すぐにジャンバードに状況説明を求めたエメラナに、この時あり得ない答えが返った。
『姫……侵入者です……!』
ゼロとエメラナは、思わず互いの顔を見合わせて……「侵入者?」と首を傾げるのだった。
* * *
「―――っマジ! ホント! 信じらんねー!」
パンパンパン、とかなり乱暴に洗濯物を払い、ナオは一人絶叫する。
まさかここまでゼロが強情だとは思わなかった。
確かに彼にその文化が無いことは知っているが、知らないなら知らないで聞けば良いではないか。
聞いてくれれば良いではないか。
トイレ掃除くらい頭を下げられ無くたって教えてやる。他の事だって、何だってナオはゼロに教えてやる。
そしてナオだってたくさんゼロに聞きたいことがある。ゼロの国の暮らしはどうなのか……一体どのような世界なのか。彼の強さが一体どこから来るのか。どうしたら彼の様に……
―――大切な人を守れるくらい、強くなれるのだろうか。
「……オレ達の事、結構どーでも良いのかなぁ……」
それとも既に彼はそう……
―――いつか来る、別れの時を考えて距離を取っているのだろうか。
だとしたら。
「……忘れて、欲しくないなぁ」
干しかけの洗濯物をそのままに、ナオは思わず一人嘆息する。ジャンバードがきっとそんなナオの言動を一部始終見ているはずだが、彼は一言も話しかけてこない。
益々虚しい気持ちになって洗濯物を干す。
そんな時、不意にナオの耳に話し声が聞こえてぎくりと身を強ばらせる。
もしかしてゼロとエメラナが近くにいたのだろうか。ランドリー室から身を隠す様にして廊下を見る。そうした所で、ふとナオは話し声がゼロとエメラナのものでないことに気付いた。
どう聞いても男の声のみ……しかもおよそ3つ。
ん? と思って顔を出すと、そこに見覚えのない影がある。
『意外と簡単に忍び込めましたねナリ兄貴……』
『ふふふ……我々の唯一の特殊能力がここまで役に立つとは……!』
侵入者……!?
どこの星の者か分からないが、カラスのような顔をした男達は顔を寄せてこそこそと……否、堂々と廊下で立ち話をしている。
『特殊能力って言っても……体薄っぺらくなるだけだけどね』
『ハリ、これを特殊能力と言わず何という……』
『そうですよハリ兄貴! 立派な超能力ですって!』
一体ジャンバードは何をしているのか……
盛り上がる3人の後ろで、ナオは思わず首を傾げる。もしかして危険因子にすら数えられていないのだろうか、あの3人。
気付いていないだけかも知れない。
いや、敵ではないのかも知れない。
ナオは取りあえず、とひょっこり顔を出して3人に手を振った。
「……あのー……どちら様?」
尋ねるナオに、ナリと呼ばれていたカラス頭が手を振り返す。
『あ、どうもー。こちらにエスメラルダの王女がいるって聞いてやってきましたー。ナリハリマリでーす』
そんなナリにハリが小さく『何普通に返してんだよ』と突っ込む。まだ名を呼ばれていないが、おそらくマリと言う者が慌ててナリに告げた。
『兄貴! 見つかっちゃいましたよ! せっかく忍び込んだのに!』
『はあっ! あまりにナチュラルに話しかけられたもんで普通に返してしまった! おい貴様!』
びし、と 突然高飛車になったナリがナオに長い爪のはえた人差し指を向ける。
『この船の主、エメラナ王女を渡して貰おうか』
「……えと、エメラナに何のよう?」
『愚問……! ベリアル陛下に邪魔なエスメラルダの姫を差し出し、陛下に楯突くゼロとか言うヤツを倒すお手伝いをさせて頂き…!』
『更に陛下の臣下に加えて頂いてこの一週間バナナオンリー生活から我々は見事抜け出して見せるのだ!』
『結構今月きついんだよね……腐りかけのバナナしか食べてない……』
「―――……」
苦労してるんだなぁ、としんみりナオは話を聞きながら頷く。しかしそれはそれ、これはこれ。どうやらエメラナに害なす存在のようなので……
ナオは小さく相づちをうちながら、ジャンバードの各所に設置されている警報機に向かう。そして、その真っ赤なボタンを勢いよく叩いた。
―――けたたましい警報が、船内に響き渡る。
びくりと体を震わせて、ナリは『ああこのガキ警報機鳴らしやがった!』などと慌てふためく。
一人呆れた様子のハリは『極めて普通の反応だろう』と兄弟に返している。
こんな間抜け共にエメラナを渡すわけにはいかない。
ナオは三人に向かって不敵な笑みを漏らしながら戦闘態勢に入った。
「エメラナは渡さねーぜっ……! ゼロが来る前に片を付けてやる」
『言ってくれるなこのクソガキっ……!』
ナリが……嗚呼、下手に配置がかわると誰が誰か判別不能になるのだが……拳を震わせてナオに怒鳴る。
『貴様の様なチビなどこの俺がけちょんけちょんのギッタンギッタンにっ……』
『ガキに構ってる暇なんて無いだろ』
しかしセリフの途中で、不意にナリの背後からハリが飛び出す。
来るか、と身構えるナオの目に、この時あり得ないモノが映った。
「え、ちょっ……そんなでけーもん何処に隠し持って……!」
ナオが三人に突っ込む間もない。
ハリは問答無用、とばかりにその……肩に担ぐ程大きなバズーカ砲をナオに向けて発射した。
「ちょっと待てぇっ!?」
だって確実に三人で話してる時そんな物持ってなかっただろうと頭の中でぐるぐる考えるナオに、それは直撃する。かなり大げさに巻き上がる煙の中で、ナリの高笑いが響き渡った。
ナオは一瞬自分に何が起こったのか理解できなかったが、自分の体が動かない事に気付いた。煙が徐々に消え去るに連れて、ナオの体をがんじがらめにしている……ええと、これは。
「―――トイレットペーパー……?」
『我が国で開発されたものすっっごいトイレットペーパーだ! 水に溶けるがソレ以外の物では破壊不可能! しかし柔らかく優しい肌心地で大人気!!』
『お姫様がケガしたら可哀想だって言う兄貴の優しい配慮に感謝するんだナ!』
「そう言う配慮が出来るならもっと真っ当に生きて見せろよお前ら!?」
ハリがナオを無理矢理立たせ、その首根っこを掴む。そしてナオの突っ込みに対してぽつりと小さくこぼした。
『そう言うまともな思考が出来れば今まで貧乏生活なんてしてないんだけどな……』
「―――……」
苦労してるんですね……としんみり思うナオの耳に、この時ゼロとエメラナの声が響く。
ハッと三人と共に廊下の向こう側を見れば、2人が苦渋の表情でナオを見つめていた。
「ナオ!」
「てめぇらっ……ナオを離せ!」
『出たな……陛下に徒なす二本角怪人が!』
ハリが前に出て、ゼロに人差し指を向ける。ゼロはエメラナに向かって「俺の事?」と確かめていた。
『この小僧の命が惜しくば、エメラナ姫を渡して貰おうか!』
危うい光を放つマリの爪が、ナオの首に添えられる。それを見たエメラナの顔が引きつり、ゼロの瞳には怒りが宿った。
「人質なんて……きたねぇ真似しやがって……!」
拳を震わせるゼロが、この時右手に持っていた何かを敵に向かって突き出した。
「てめぇらの様な悪党は、この俺が許さねぇっ!」
びし、とかなりの勢いで突きつけられたそれ……それはまさしく。
―――さっきナオが渡した、トイレブラシ(未使用)だった。
一瞬の沈黙が重い。
ナオも何て反応したら良いか、否この後どうやってゼロをフォローすれば良いのかよく分からず取りあえず滝汗を流す。そしてナオを束縛する三人もまたちょっと反応に困った様で、顔を見合わせ『トイレブラシ?』『イエス、トイレブラシ』などと確認していたが、ナリは流石立ち直りが早かった。
腰に手を当てて悪役さながらの高笑いをして見せると、ゼロに向かって人差し指を突き出し……
『馬鹿か正義の味方の癖に悪人面! そんな物で俺達を倒せると本気で思ってるのか!』
『大体便所ブラシは掃除する物で武器ではないわ!』
『いや……つかお願いだからそんな物で俺達殴らないでね……』
約1名黒い顔を真っ青にして後ずさるが、他2名はトイレブラシなど何のそのと嘲笑する。ゼロは彼らの言葉を聞きながら、ふと手の中のトイレブラシを見た。
そして続いてナオを見る。何だかとても問いかけたそうな……そんな、瞳だった。
『さあ! この小僧がどうなっても良いのか!』
『髪の毛一本一本抜いちゃうぞ! 眉毛まで抜いちゃうぞっ!』
『もうちょっと痛い拷問思いつかないかな……』
3人がやんややんやする中、見かねたようにエメラナが飛び出そうとする。しかしそれを、ゼロが制して再び3人を睨み付けた。
「―――ナオ!」
そして不意に、3人が驚いて黙ってしまうほど大きな声でナオの名を呼んだ。彼はその手に持つトイレブラシ(新品未使用)を強く握りしめると、ナオの瞳を真っ直ぐ見つめて……告げた。
「……必ず助ける……!」
ナオはそんなゼロの瞳を受け止める。
そんなゼロの思いを受け止める。
「―――バァカッ……疑ってなんかねぇよ!」
弛む涙腺を抑えるように、ナオはゼロに怒鳴り返した。
ナリはトイレブラシ(新品未使用開封済み)を再び構えるゼロを罵倒する。
『まだそれで刃向かうつもりか青赤怪人! そんな物が一体何の役に立つ!』
「まず一つ……これはトイレをピカッピカに磨くすっげーもんだ」
とん、とゼロがトレイブラシを叩く。
「二つ……これはただのトイレブラシじゃねぇ……ナオが俺に託した、友情の証。どんなヤツだってこれを折ることは不可能だ」
え、そうなの? とナオに確認してくるがナオは何とも返せなかった。
「三つ……更にこれはナオと俺とエメラナの……絆、そのもの!」
バッ! とゼロが動いた。
風の様に動いた。
『うわ、ちょっと待て!』
「最後に一つ、てめぇらの脳みそにマジックペンでしっかり書いておけ……俺の名は、ウルトラマンゼロ!」
一瞬だった。
風―――否、光。
まさしく雷光の如く迫るゼロは、華麗なトレイブラシ捌きで3人の脳天をことごとく叩き伏した。
「―――現在、ジャンバードのトイレ掃除係……だ!」
解放されたナオが、身動き取れず床に崩れそうになるのを支えたのはエメラナだ。
トイレブラシで見事額を打たれた悪党共は、ヒクヒクしながらゼロに向かって右手を伸ばした。既にそこには膨らんだ餅ほどのたんこぶができあがっている。
『き、貴様っ……正義の味方ともあろう物が便所ブラシで人を殴るなどっ……!』
『良い子だって見てるんだぞ! その可能性大なんだぞ!』
ゼロはそんな彼らの呟きに「ああ」と小さく頷いた。かと思うと、よく解らない方に向かって親指を突き立てて見せる。
「よい子のみんな! トイレブラシは人を殴るもんじゃねぇから……悪党以外は殴っちゃダメだぜ!」
『何その厳選……』
『あ、悪党にも……どうか、人権を……!』
『だから始めからこんなの止めとけって言ったんだ……』
力の限り振り絞る声―――しかし、とうとうその言葉を最後に、彼らの意識は遠くの宇宙の果てにぶっ飛んだ。
先程大量に流した汗で、ナオをがんじがらめにしていたトイレットペーパーが半分溶けていたようだ。簡単に束縛から逃れたナオは、ゼロに向かって勢いよく抱きつく。
「ごめん、ゼロっ……オレ、オレさっ……!」
「―――ナオ」
ゼロがそんなナオを制するように、頭を撫でる。エメラナもナオの肩に手を置いて、無事で良かったと優しい笑みを漏らした。でもダメだ、彼らがちゃんと理解してくれてたとしても、ナオの口から出さないとその気が収まらないのだ。
「オレ、ゼロに押しつけたりして……でもオレ、やっぱゼロに忘れて欲しくなくてっ……ゼロにもっとオレ達の事知って欲しくて……!」
「バァカ」
とん、と額を拳で押されて、ナオは黙る。そんなナオに、ランの顔でゼロは優しく微笑む。
「どんな事があったって……どんなに遠く離れたって、俺はナオも、エメラナの事も、絶対に忘れたりしねーよ」
そんなゼロが、ふとエメラナを見た。エメラナもまた、胸の前で手を合わせながら静かにゼロを見つめ返す。ゼロは小さく息を吐いて、不意に手にしていたトイレブラシで己の肩を叩いた。
「―――とは言え! やっぱ語る思い出が少ねーと寂しいよな。親父への土産話もまだ出来て無いわけだし」
そしてゼロは、ナオに向かってトイレブラシを掲げる。
彼は自分の鼻を親指で弾くと、ちょっと照れくさそうにナオに告げた。
「トイレ掃除ができねーのは男の恥なんだろ? 免許皆伝貰えるまで帰れねーなぁ、師匠」
は、とナオの胸にこみ上げる喜び。
エメラナを見れば、彼女も頬を桃色に染めて嬉しそうに頷く。
ナオは彼の手を取って、「トーゼン!」と声を張り上げた。
「トイレ掃除マスターになるまで帰さねーぜ、ゼロ! 今日からこのナオ様がビッシバッシ鍛えてやる!」
「そーこなくっちゃな!」
「私も弟子入りさせてくださいっ。私もおトイレ掃除マスターさんになりますっ!」
『いけません姫様! 姫様の手が汚れますっ!』
「硬い事言うなってジャンバード!」
「よおし、三人でジャンバードの便所を宇宙一ピカッピカにするぞー!」
おお! と拳を振り上げ、意気揚々と移動を始める三人に、ジャンバードは思わず怒鳴ったと言う。
『そんな局所的じゃなくて全体ピカピカにしろよっ!』
無論、そんな主張が耳に届かぬほどに……三人は今、幸せの中にあるのだった。
Fin.
--
だれかこの馬鹿矢野に幸せがなんたるかを教えてやってください。
思い悩むゼロと、ゼロに自分達をもっと知ってほしい、覚えていてほしいと願う姫様とナオが可愛くて……っ!!////
ちょっとずれた三人の決意に笑わせて頂きつつ、突っ込みを入れるジャンバードがオカンにしか見えないのがまたおかしくて、可愛いです!^^
三人でトイレ綺麗にしてあげて下さい!
可愛くて、ほのぼので、温かい幸せをありがとうございました……!////
後でグレンとミラーも加えてみんなでジャンのトイレを綺麗にしてあげたら良いと思います笑 んでジャンに怒られれば良いと思います!笑
こちらこそ、本当に嬉しいコメントを有り難うございました!!!///
互いのことを思いやる彼らの心がいじらしくていとおしく感じました。こういう関係、好きです。
そして。
トイレ掃除マスター………これが笑わずにおられましょうかww あまりの可愛さ、決意に応援をしたくなります^^ 敵役の三人もいい出汁が出ていますが、トイレブラシをビシッと指し示すゼロがカッコイイやら可愛いやら。絵的に想像して「私、このキャラ好きかも」なんて思っちゃいました。
トイレ磨きは心の対話。いいセリフですね。
でもこんなネタでも笑って頂く事が出来て…それ以上の幸せはありません!
取り敢えずこれから三人には伝説のトイレブラシ“聖なる便所磨き”を求める旅に出て欲しいと思います笑
嬉しいコメント有り難うございました!
良かったら是非お暇な時にでも映画を見てみてくださいっvv
矢野様の物語を、待ってました!!
思わず、ktkrっと心の中で叫びながら読んでしまいました!!
なんだか、あのシーンのゼロが非常にかっこよくて、ゼロへの好感度が増えた気がします!!
ありがとうございました!!
あのすばらしい16作品の後、最後の最後にこれかよと自分自身に突っ込みを入れてしまったのですが、楽しんで頂けて本当に何よりですっっ!!!///
私としてもトイレブラシ事件でゼロへの好感度が上がった気がします笑
次の事件はきっとお風呂掃除でしょうね!笑 あ、ティガ探偵に是非来て貰わなくちゃっ!!!///
私の方こそ、嬉しいコメント有り難うございましたvv
互いを想い、忘れがたい時間を過ごした証
共同生活にはやっぱり分担必要ですよね!
少しずつ、互いの気持ちに気がついていく3人がとてもいじらしく、可愛いかったです!
ジャン、頑張って!!
思わずエールを送ってしまいましたww
道中の素敵なひとこま、大変幸せにさせて頂きました!ありがとうございましたv
一番働いてるのはナオですねっ!!!笑
きっとベリ帝の方でも役割分担してたと思います! あ、そっちで書けば良かったかっ!!!笑
ともあれ、何よりも自分が楽しませて頂いた作品でしたが、嬉しいコメント有り難うございました!
どうかジャンを労ってあげてくださいお願いします笑
ジャンも突っ込み担当な良い持ち味が本当に良かったですよー(^o^) 素晴らしく面白かったですよ★(^o^)
MH祭、お疲れ様でした!素晴らしい矢野様の作品で祭は閉幕!寂しくなりますね・・・(苦笑) 来年は絶対参加します!!
ではでは失礼します! あくあ
…のワリに本当にアホネタで申し訳ないですっ…!!!/// それでも楽しんでくださって有り難うございました、あくあ様! 取り敢えず三人のそれぞれの良さが伝わって良かった…vv
あくあ様も、最後までお祭りにつきあってくださって本当に有り難うございます!!
本当に寂しくなりますが、来年こそは是非、あくあ様も参戦してやってくださいvv
コメント有り難うございましたっ!
解からないのにコメントをしては失礼かな、と
今まで避けてきたのですが…言わせて下さい。
っ可愛ぃぃいいいいいっっッッ!!!!/////(ゴロンゴロン)
もうみなさん素敵!ゼロさんが特にいいなと思いました(*´∀`*)かっこいい!
これを気にアニメ(?)見てみようかな?
ほんわか作品、ありがとうございました!
知らないくせに申しわけございませんでした><;
失礼なんてとんでもないっっ!
むしろ知らないジャンルにも関わらず、こうして興味を持ってくださって…幸福の極みですっっ!!!/// みんな良いとの言葉にとてもほっとしましたvv
是非! これを期に特撮の方も見てみてくださいっっ!!!///
嬉しいコメント、本当に有り難うございましたvv
矢野様の冴えるギャグと共に炸裂していて
感動するやら笑えるやらでした!
高性能なトイレットペーパー
すごいけど何のために開発したんだ!と
開発者を激しく問いただしたいですw
トイレって、穢れを流す場だからこそ
綺麗にすれば運気が上がるといいますね。
3人でピカピカにすれば、それだけ絆も
深まりそうですね!
このお祭で、初めて知った作品がありました。
元ネタを知らないながらに皆様の作品を拝見して
必ずどこかに心を打たれる箇所があって
なんて素敵な事だろうと思いました。
毎日とても楽しかったです!
ありがとうございました!
こんなアホネタにも関わらず、最後まで目を通してくださって有り難うございます! トイレを磨くと運気が上がるんですね!? 知らずに祭に沿ったネタを使えて良かった!笑
このお祭りが少しでもSUNASU様にとって良い物であったことに、私も心から嬉しく思いますっ…!!!/// こちらこそ、本当に最後まで楽しい日々を有り難うございました!