金縛り その1::
「よぉ、鬼太郎、地獄の釜のふたもそろそろ閉じようってのになんだここ? 閉鎖寸前の様な無更新履歴だな。そも履歴すらねぇ」
「もうなんかこの下りすっかりおなじみになってやだなぁ……やぁ地獄の釜のふた空いたからって調子扱いて現世来てんじゃねーよ地獄童子。だが今の君の意見には賛成だ。あれだけ今年もMH祭りしたいって絶叫してたのにいざ夏に入った途端これだもんな。管理人言い訳常套手段、“オンめちゃくちゃ忙しい”」
「そしてお前はすっかり忘れ去られてるしな」
「忘れ去られてねーよ! 忘れ去られてるのは……」
「ああそっか、お前は管理人に忘れ去られてるんじゃなくて……嫁さんに忘れ去られてるわけか。何? 嬢ちゃん一体今どこいるの?」
「よっ……嫁じゃないよ! まだ嫁じゃないよ! “まだ”ね!!」
「そこ自分で強調してて寂しくならねーか……」
「大体、今日猫娘は用事があって……別に僕の事忘れてるとかそんなんじゃ……」
「その用事にお呼ばれもされず、こうしてくぅらぁも扇風機も無いクソ熱い部屋の中で親父さんの行水手伝ってるわけだな。哀れ鬼太郎……」
「気持ち良いぞ地獄童子や。お前さんも一緒にどうじゃ」
「遠慮しとくよ親父さん。海でもないのにたらいに水はって涼むなんて俺寂しくてできない……」
「こやつさり気に儂の事バカにしとらんか?」
「そう思うなら餅殺しなりなんなりして懲らしめて良いと思いますよ。いっそ二度と地獄の釜から出られなくしてやりゃ良いんです」
「おいおい鬼太郎、せっかく俺がMH祭りもできなくて寂しい思いしてるお前にとびっきりの恐怖体験談を持ってきてやったっつーのに……なんだその言い草は! 教えてやらねーぞっ!」
「別に良いよ怪奇ならぶっちゃけ僕の存在自体怪奇だし」
「そう言わないでお願い! 聞いて! 聞いてくれないと俺ここで泣く! 泣いちゃうから!」
「どうせ聞かないって言ってもしゃべるんだろ。で? 今日はどんなくだらない話聞かせる気だ?」
「ま、管理人の実体験だからくだらないのはその通りだ! 今回のテーマは金縛りでいくぜ!」
「ああ、あいつホント金縛りのネタで事欠かねーもんな……」
「そうそう。なんでも夏休みな、あいつ時々ばあちゃん家に遊びに行くらしいんだよ。そも実家も田舎だが、このばあちゃん家がこれまたすげーど田舎にあるらしくてな」
「夜中窓全開鍵かけないで寝てもさして問題ないど田舎な」
「あの頃は犬飼ってたって話だな。確かビーグル犬」
「んで? 夜中金縛りにでもあったのか?」
「夜じゃなくて昼。その日ばあちゃん家着いた途端疲れたのか、布団敷いて昼寝させて貰ったらしい。今となっては、昼寝するとよく金縛りになるって解ってるからあんましないらしいけど、あの頃はしょっちゅう昼寝してたらしい」
「ガキって昼寝好きだよな」
「寝穢いガキだったんだな。で、暫くうとうとまどろんでたらしいけど、不意にぱっちり眼が覚めたらしい。眼はかっぴらいてるのに、頭が動かなかったから、『あ、金縛りだな』と思って力抜こうとした。金縛りって動こうとすればするほど、布団が締め付けて来るって言うか、特に歯に力入って苦しくなるんだよ」
「ふーん、そんなもんなんだ……」
「目玉だけは何故か動かせるもんだから、つい周りの景色確認しちまう。それで、管理人の足下……右側の部屋の隅の方に、何かいるって気付いたんだよ」
「―――随分と視野広いんだな」
「半分夢みたいなもんだから、細かいとこ気にするなよ。その部屋の隅にいた何かだが、どうも座ってるって事は解った。そしてこちらに背を向けてるって事も解った」
「で?」
「で、こっちが気付いてる事に、気付かれてないと思って、眼を閉じた。もう一回しっかり寝ちまおうってやつだ。大概金縛りってしっかり寝ると解けてるし」
「でも、寝れなかった」
「いや、たぶん寝た。寝たんだろうけど、また眼が覚めた。眼を開けたそこに、いた」
「……何が」
「正座して、こっちの顔をじっとのぞき込んでる……」
「―――……」
「真っ赤なモヒカン頭の男」
「モヒカンって何だよォオオォォォオオオオ!!!??? つか赤毛ってどんなオプションだよぉおおおぉぉぉ!!!???」
「果たして赤毛がオプションなのかモヒカンがオプションなのかわからんが、あんまり寂しそうなっつーか困った顔でこちらをのぞき込んでるから怖いとかそう言うの以前に『え、何、どうしたんだろう』っておろおろしてしまったらしい。しかしまたしても金縛りだったから動く事もしゃべる事もできず、結局……」
「……結局?」
「また、そのまま、寝た」
「お前ホラー語る気毛頭ねぇえだろぉぉおおお……!」
「俺じゃねーし。管理人だし」
「しかし何でモヒカン頭の男性だったんじゃろうなぁ?」
「いや、これでモヒカン頭の女性でもびっくりですけど……」
「やっぱその三日前くらいにろぉどおぶざりんぐとかやらのキャストトークに出てきたおぉらんどぶるうむがモヒカンで出てきたのが相当ショックだったんじゃねーか?」
「そう言うオチ? やまも無ければオチも無い!? うわこれ読んでくださった方々全員に謝れ管理人!!!!」
―――すみませんでした!!!!!
「ま、良いんじゃね。なんだかんだ言って健在ってのは解ったから。それよりスイカ食おーぜ。スイカ。そう言えば結局お嬢は何しに出かけたんだ?」
「……夢子ちゃんと、市民プール」
「……負けるな、親友」
お前の夏は、これからさ。
ミンミンゼミが今日も喧しい、そんな午後でした。
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戸田「その1ってことは……まさか続くのか!?」