金縛り その2::
「やっべこのスイカマジうめっ。正拳突きで砕いたから最高に食いにくいけどめっちゃくちゃうめっ。お嬢にも食わせてやりたかったな」
「もう良いよ。猫娘なんてどうせどうせ夢子ちゃんとプールさ。誰のために可愛い水着買ってきたかと思いきやまんまと小悪魔に取られたよ。ちなみに一度もお披露目してくれてないよ。新しい水着。そう言うロマンスも無いよゲゲゲハウス」
「水着あるだけ良いだろー。こちとらずっと死に装束だから三途の川で遊ぶにも死に装束だぜ」
「遊ぶなよ。たぶんあそこ遊泳禁止だよ」
「まぁ幽子は何来ても濡れれば良い……いでっ!」
「この怒変態が。全年齢対象サイトだここは」
「おっといけね、俺の中のりびどおが危うく暴走するところだったぜ」
「帰れ」
「それよりさぁ、お前金縛りでなんか思い出ないの?」
「金縛りを思い出とか呼びたくねぇよ……そう言えば管理人が前話してた話だけど」
「結局管理人かよ」
「随分前に隣の家に赤ん坊が生まれてな、その子の夜泣きが随分酷くて、そのたびに母親が子守歌歌ってあやすのが聞こえてくるんだと」
「ふーん……良い母さんだな」
「その日もやっぱり、隣の庭の方から赤ん坊の泣き声が聞こえて、んで、母親のあやす声が聞こえてた」
「……」
「今日も大変だなぁ、とか思いながら、ベッドに入ってまどろんでたらさ……いつの間にか寝てたみたいで、ふと眼が開いた時は真夜中だった」
「何時かわかったのか?」
「よくわかんなかったけど、何となくそう思ったらしい。ホントのところは一体どれだけ寝てたのかはっきりしてねーけどな。でも眼だけがぱっと開いた瞬間、『あ、来たな』ってまた解ったらしい」
「ああ、金縛り」
「そう。相変わらず布団が全身に張り付くみたいにぎゅう、って身体を押さえつけてさ、息を吸おうにも歯に力が入ってうまくいかない。とにかくいいや、また寝てしまおうと眼を閉じた時だった……」
「……」
「子守歌がな、聞こえてきたんだよ」
「……」
「また赤ん坊が泣き出したのかなって思ったら……なんかおかしい。そうだ……あれだけ静かな子守歌が聞こえて、赤ん坊の泣き声は全然気付かなかった」
「……」
「そして、階段を上る音が聞こえてきた」
「……管理人の部屋、二階なのか」
「そう。古い家だし、壁は薄いし、誰かが階段登る音が聞こえるのは何も不思議じゃねーんだけど……どうもな、誰が登ってるのか全然検討つかねーんだよ。大体足音で解るもんだろ。リズムというか、重さというか……でもな、家族の誰のでもない。ゆっくりと、踏みしめるようにその音は登ってくる」
「……」
「それと同時に、気付いた」
「……」
「子守歌がな、階段を上がる音に合わせて……近づいてくるんだよ」
「……」
「ああまずいな、って思っても、身体は動かないし、音はゆっくりと近づいてくる。子守歌が最後の階段登りきった辺りになって、突然赤ん坊の泣き声が響いた」
「……」
「あんまり大きな鳴き声で、頭がーんってなって、『イッテぇ』って思ったら……身体が動いた。耳を澄ましても、もう赤ん坊の声も、子守歌も聞こえなかった」
「……ふーん……」
「……地獄童子」
「……なんだよ」
「スイカの汁ぼったぼった床に垂れてんですけど」
「うおぉお別に動揺してたわけじゃねーぞお前の話し方うまかったからつい聞き入っちまっただけだやっべこのスイカマジうめマジ最高!」
「……ちゃんと拭けよ」
少し風が吹いて、涼しさの増す夕方でした。
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戸田「俺こういうの、十八番ですから」