―――マジ無いだろこの年でバス間違えるとか。
お盆ダイヤで本数少なくなってるのは勿論知ってたし、代わりに自宅に一番近いバス停まで行ってくれるバスも知ってる……つもりだった。しかしながら終点同じで経由が違うバスがこうも多数あると、地元と言え間違える事はある。あるはずだ。
それにしたって。
慌てて降りてしまった場所で、呆然と立ちすくむ。
見覚えのある所だ。何度か父親の車に乗った時通った気がする。だからたぶん大丈夫……大丈夫だと、思うのだけれど。
取りあえず自分の住む団地はここより“上”なのだから、坂道は上り。
高校帰りの重たい荷物を背負ったまま、とぼとぼと歩くこの情けなさよ。
空はまるで自分の心を映すかのようにどんよりと曇っている。
人気のない道は歩けど歩けど目的地に着く気配がない。
やっと見知った踏切を見つけて、思わず安堵の息を漏らしたが、その後がいけなかった。
踏切の先に二本の道があったのだが、どうやらここで間違ってしまったらしい。
辺りはただでさえ人気が無かったというのに、益々寂しくなっていく。
とうとう民家や駅などの建物が消え、左右はうっそうと生い茂る木々に囲まれた。更に追い打ちを掛けるかの如く出てくる霧。しっとり張り付いて、徐々に体温を奪っていく。
間違っていると解っていた。
この道は違うと解っていた。
それでも何故か、がむしゃらに歩いていた。
時折烏が一羽、頭上を慌ただしく飛び去っていく。
寒い、と手を擦り合わせて、肩に食い込む荷を何度か抱え直す。
戻ろうか、と考えると、いやこっちにきっと抜け道があるはずだ、なんてありもしないことを考える。
そして結局歩いていく。
一人でとぼとぼ歩いていく。
そうして行くと、随分と長い石段が霧の合間に見えてきた。
もしかして家の近くにあった神社じゃないか、と考えるとその石段の上から人が降りてくる。
おお、人だ。
ここまで誰ともすれ違わなかった事で、人恋しくなっていたのか。とにかく人の存在にホッと安堵した。
しかしながらはて、と首を傾げる部分もある。
神社の参拝にしては随分と多い。
ぞろぞろと行列なして石段を下りてくる人々。
整然と並んで石段を下りてくる人々。
先頭がゆっくりとこちらに歩いてくる。
流石に道の脇に避けて、その行列をじっと見つめた。
まるで葬式でもあったかのように、皆が皆黒い服を着て俯いている。
足音を立てることすら憚れるような静寂の中、その列は道をどんどん下っていく。誰も一言も話さなかった。物音一つ立てていなかった。
最後まで見送った所で、自分は石段の真下に来た。
一段、石段を登ろうとした所で、ようやっと自分はその脇にあったどでかい看板に目が行った。
―――この先、火葬場
「……ああ、うん」
思わず看板に向かって頷く。
「この先は……無いな」
登り掛けた足をゆっくりと元に戻して、踵を返して逃げる様に坂道を下った。
途中、あの行列とすれ違うことは無かった。
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「火葬場」の文字見た時は「うん、マジ無いな」って思った笑