幼児にとっては、見慣れぬもの全てが面白い。
まして、初めて見たものは尚更だ。
光の国。
宇宙警備隊本部、ウルトラ兄弟の執務室。
自分達の執務室に戻って来たエースは、予想外の状況に唖然とした。
書類や資料が散乱し、机の上に置いてあったほぼ全ての物が倒れている。
それも兄弟全員の机の上が。
まるで誰かが机の上で暴れたかのような惨状に、エースは開いた口が塞がらない。
『・・・嘘だろ・・・』
『エース?どうし・・・・・・』
茫然と入口に立っているエースの背後から声をかけたゾフィーは、部屋の中を見て言葉を途切れさせた。
エースと違って心当たりのあるゾフィーは素早く室内に視線を走らせ、すぐに来客用のソファの上でふわふわと浮いている幼児を見付ける。
ゾフィーの視線の先に気付いたエースはガックリと脱力しつつ、溜息と共に問いかけた。
『セブン兄さんは?』
『勇士司令部へ出張、ザージ付き』
『タロウは?』
『文明監視館に出向いて会議中だ』
『・・・アストラは?』
『レオと共にキングの介護、いや、キングの元に行っている』
『あちゃ~・・・』
結論、自分が子守りをするしかない。
エースは深い溜息を吐き、来客用のソファに横になって眠っている次兄を見遣った。
ウルトラマンの寝顔に疲労の色が見える気がして、エースは数時間後の自分をウルトラマンに重ねて見える気がした。
そんなエースとゾフィーに見守られていることに気付かず、幼児は小さな小さな手でウルトラマンの頬に持っていた印鑑を押し付けた。
『『あ』』
『・・・ん?めびうす?』
『ま~v』
小さな刺激に目を覚ましたウルトラマンは、苦笑して幼児を両手で捕まえて起き上がった。
メビウスは嬉しさ一杯の笑顔を浮べて印鑑を放り投げ、ゾフィーは咄嗟に片手を伸ばして自分の方へと飛んで来た印鑑を掴み取る。
仮眠を取っていたウルトラマンはメビウスの子守りをしていたはずのジャックの姿が無いことに気付いた。
周囲を見回して部屋の現状に絶句し、ウルトラマンは思わずゾフィーを見遣る。
少し肩を竦めたゾフィーの言葉にウルトラマンは頷き、幼児を両手で捕まえたまま立ち上がった。
『ジャックはどうした?』
『ちゃ~?』
『・・・これ・・・ゾフィー兄さん』
『・・・マン、私に説明を求めるな。エースに聞いても無駄だぞ。さっき戻って来たばかりだからな』
『それよりもこれを片付けないと仕事ができないだろう?エース、子守りを頼む』
『はいはい』
ウルトラマンから幼児を受け取ったエースは、両手で高い高~いと幼児をあやし始める。
ゾフィーはどこからともなくハンカチを取り出し、ウルトラマンの頬に付いた印鑑の汚れを拭き取った。
言葉無く視線でゾフィーに感謝したウルトラマンは、背後で聞こえた驚愕の声に振り向く。
両手に小振りの箱を持って帰還したジャックは、ゾフィーに箱を渡すとウルトラマンの傍に駆け寄った。
『うわっ!?』
『ジャック、どこに行っていた?』
『科技局へゾフィー兄さんが注文していたものを受け取りに行ってました』
『そうか、完成したのか』
『マン兄さん、手伝います』
『頼む』
『ま~♪ちゃ~♪』
『よ~しよ~し、メビウス~良い子だから俺と一緒にシャワーを浴びに行くぞ~』
エースは片手で自分のマントを脱いで自分の椅子へと投げると、メビウスを抱いたままシャワールームへと向かった。
その背中を視界の隅で見送りながら、ウルトラマンは少し微笑む。
子守りは確かに大変で、仕事が捗らないことも屡だが・・・それでも、どこかで喜んでいる自分がいる。
それは、兄弟達も同じだろう。
どれだけ忙しくても、仕事を中断しなければならない状態になっても、誰も不満を感じてはいないのだから。
何となく考え事をしていたウルトラマンは、ポンッと肩を叩かれて振り向いた。
いつの間にか背後にいたゾフィーに少し驚いたウルトラマンに、ゾフィーは先程ジャックから受け取った箱を渡す。
『ゾフィー兄さん?』
『私の印鑑だ。私の代わりに決裁する時に使え』
『え!?』
『アイツに特注した優れ物だからな。私達だけの秘密だぞ?』
『ゾフィー兄さん・・・』
『お前に任せておけば問題無い。これで安心してサボタージュできるというものだ』
『私の仕事を増やすな』
絶対の信頼の証とも言えるものをゾフィーから受け取ったウルトラマンは、続けられたゾフィーの言葉にガクッと脱力する。
感動を返せ とウルトラマンが内心でつい思ってしまっても、無理も無いだろう。
言葉に反してゾフィーとウルトラマンは顔を見合わせて微笑み合い、ウルトラマンの箱を持つ手に少し力が入った。
いつもの日常が、平和な光景が、どれだけ大切か・・・身を持って知っているだけに、とても愛おしい。
ゾフィーはジャックの死角でウルトラマンの肩を抱き寄せ、ウルトラマンは苦笑を微笑に変えてそっとゾフィーの肩を押した。
部屋の片付けを優先させた弟にゾフィーは満足気な笑みを浮べ、自分でコーヒーを淹れに行く。
簡易キッチンへと姿を消したゾフィーの後ろ姿を見たウルトラマンは、後で何かお茶菓子を焼くことにした。
当たり前の日常を幸せだと感じながら、ウルトラマンはジャックと共に部屋を片付け続けた。
『マン兄さん、ザージから“予定より帰還が遅くなる”って連絡が』
『・・・・・・セブンに無理をさせるな、と伝えろ』
『はい』
通信で少々頭の痛い連絡が入っても、溜息1つで済ませられるのは良い方だ。
これもまた、幸せな日常の一部かもしれない、と苦笑したウルトラマンは深い溜息を吐いた。
End.
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♪作者様案内♪
>>シロ様
今年MH祭初参加!
MH祭史上二人目のウル虎作品執筆者様です!
多忙なヒーロー達の小さな幸せを綴ってくださいましたvv
ジャックさんの特注印鑑って…確かに凄そうですね笑 加速装置ついてそうですね!笑
なんともほほえましいワンシーンですね。子守って大変ですが子供の愛らしさに、決して辛いだけじゃなく、子供の笑顔に、また救われちゃうんですよね。
それだけじゃなく、ここにあるのは兄弟たちの信頼やいたわりや、充実。
ああ、いいなぁ。
マンとゾフィーの取り合わせって、大好きです(≧∇≦)
ほっこり、楽しませてもらいました^^