貴方に、見せたい。
「ゲーム、携帯、それからー……」
ガイアが一つ一つ、大きなデスクに並べられたものを物色していく。
マンを覗いた六兄弟とゼロ、メビウスにヒカリ、それからティガを始めとする平成組が集まって、それを見守っていた。
地球から三百万光年も離れた光の国には、地球から持ち込まれたイベントや習慣、日用品が数多くある。
クリスマスやバレンタインデーのイベントなんかは、恋人や夫婦、子供達に大受けだ。
科学技術でいえば光の国の方がずっと進んでいるが、思いも寄らない日用品が流行ったりもする。
娯楽品などはその典型だろう。ティガを始めとする平成組が持ち込んだ携帯ゲーム機など、一時期子供達の憧れの的だったのだ。通信で協力プレイが出来たり、対戦が出来るタイプのゲームはプレイヤーが盛り上がりやすく、いい大人が夢中になっている光景もちらほら見られたものだ。
そんな風に、地球のものが持ち込まれるようになったのは。
『初代』と呼ばれる彼の人が、地球という星を愛したから。
命を懸けてしまう程に、地球という惑星を愛したから。
だから、地球のものを使って何とか彼を喜ばせたいのだと、メビウスとゼロが言い出したのだった。
何しろ、もうすぐマンの誕生日だった。誕生日には誕生日でプレゼントを用意してあるのだけれど、地球のものを使っても、何かして喜ばせたい。
そんなルーキー達の要望に、弟を溺愛する隊長が応えない訳がなかった。すぐさまマンを覗いた兄弟と、親友と、平成組を招集したのである。
いかに大きな功績を収めているゼロとて、早々地球に遊びに行けるわけではない。地球に慣れ親しんでいる、六兄弟を始めとする警備隊員達もそうだ。任務でならともかく、観光目的、土産目的地球に立ち寄れる機会は少ない。
というわけで、光の国にある地球発祥のものを使って何か出来ないかと、顔面付き合わせて考えているというわけである。
「携帯でみんなの写真撮って、贈ってみる?」
「それだったら、マンも混ぜた方がいいだろう」
ガイアの提案を、アグルがすげなく却下する。周囲もそれに同意して頷いた。確かに、写真を撮るのなら、贈られる本人もいた方が嬉しいと思える。
「ゲームは……マン兄さん、あんまりやらないもんなぁ」
タロウが携帯ゲーム機を持ち上げて却下した。
以前ガイア達が持ち帰ってきたゲームをみんなでやっていたことはあるが、積極的に新しいソフトに手を出そうとはしていないはずだ。みんなでわいわいやっているから、マンも楽しんでいた節がある。
「写真集なら、沢山お持ちですよね」
とティガが言った。地球の風景の写真集を手にし、ぱらぱらとめくる。多分、一番マンの心をくすぐりそうな代物なのだけれど、それこそ、マンを溺愛する兄弟達がこぞって持ち帰ってくるので足りているはずだ。
「地球の料理……は、あいつが作る方が美味いな」
自分で言って、自分で納得するヒカリ。自炊しているマンは、多分この中の誰より料理が上手い。
ああでもない、こうでもないと意見を付き合わせるが、どうにもいい案が浮かばない。
地球に一番馴染みのないゼロは、意見も出せず場を見守っていた。言い出したのは自分だというのに、何も案を出せないのが情けない。
手持ち無沙汰なのが嫌で、ついつい手近にあったティッシュペーパーを弄りだした。
一枚とってくしゃくしゃと丸めてみたり、ひらひらと宙を泳がせてみたり。帯状に裂いてみたり。裂いたものを丸めてみたり。
それを見ていたガイアが、あ、と声を上げた。
「ねぇねぇゼロ」
「あ?」
「その丸めたのに、もう一枚ティッシュペーパー被せて」
「へ?」
言われるままに、ゼロは丸めたティッシュペーパーに、さらにもう一枚を被せる。被せたティッシュペーパーで丸めた方を包んで糸で止め、顔を描く。
地球に慣れ親しんでいる面々は、それが何なのかすぐにわかった。
「照る照る坊主ですね」
「そう! ティッシュペーパーって色々作れるんだよね」
嬉しそうに手を叩いたメビウスに、ガイアは自慢げに言った。
「何枚か重ねて、蛇腹に折るでしょ。で、真ん中をホチキスかなんかで止めて、一枚一枚開くと花になったりとか」
見た方が早いだろうと、ガイアは器用に、ティッシュペーパー製の花を一つ作って見せた。
「地球だと、色の付いた薄紙で作ったりするんだよね。で、学校の入学式とか卒業式で使ったりするんだよ」
「へぇー、凄いですねぇ!」
子供のように目を輝かせるメビウスに、ガイアは得意げに胸を張る。その様子を、苦笑したり呆れたりしながら眺めていたメンバーだったが。
「……じゃあさ、これで地球の風景作れないかな」
何気なく呟いたエースに、視線が集中した。いきなり注目されたエースは、気まずげに、ガイアが作った花を手に取る。
「いやあの、色つけて花作って、青く塗った紙にくしゃくしゃにした奴貼れば雲とか、波飛沫に出来そうじゃん? 落ち葉っぽくも出来そうだし……細かくちぎれば雪とかさ」
大量に使わなきゃいけないから、ちょっと勿体ない気もするけど。
やっぱり駄目かなぁ、と苦笑するエースに、ゾフィーが頷いた。
「それだ」
「はい?」
肯定されるとは思わなかったらしいエースは、目を丸くする。
「そうだな、あいつ地球の景色好きだし」
「どこで作りますか?」
「あそこがいいんじゃないか。ほら、一番広い休憩室」
「というわけで隊長、権力使って貸し切って」
「任せろ」
「あのー、もしもーし?」
どんどん話が進んでいくのに、思わず声を上げる。ところが、兄弟達は揃いも揃って「何だ」という目でエースを見るではないか。
「どうした、発案者」
「ねぇ、エース兄さんは何作りたい?」
「マジでやるの……?」
今更何を抜かすか、という視線を一斉に向けられて、エースは何とも言えない顔になった。視線を向けてくる奴らの中に、ティガとゼロまでいるのが何ともはや。
「とりあえず、不器用な奴は雲とか波飛沫な」
「お前のことだなダイナ。あ、色つけに絵の具いりますよね?」
「あ、じゃあ僕色つけやりたいっ!」
「俺も俺も!」
「……海の青に適当な色使ったら許さんぞ」
「じゃあ、ただ青い紙使うんじゃなくてきちんと彩色するか」
しっかり平成組やヒカリまでノリノリである。特にティガ達平成組の四人は地球出身だからなのか、兄弟達以上に楽しそうだ。
こうなったら、ノリが悪いと思われるのは心外である。きっちり楽しんでやろうじゃないかと、エースは袖をまくり上げた。
今日はどうもばたばたしている、とマンは執務室を見渡した。
入れ替わり立ち替わり、兄弟達が執務室を忙しく出入りしている。資料を探しに行くとか返してくるとか、書類を提出してくるとか。マン自身はというと少しもそんなことはなく、ただいつもより多い書類をひたすら処理しているだけだ。
自分の仕事は自分で、が基本方針な六兄弟は、どうしても一人では出来なさそうな仕事がある時だけ、相手の仕事を手伝うことにしている。だから、マンもばたばたしている兄弟達に疑問符を浮かべつつ、口出しはしなかったのだけれど。
ふと気付いて顔を上げた時、執務室に自分以外いなくなっていたのには面食らってしまった。
「……あれ?」
みんなどこに行ったのだろう。
たまたま、執務室の外への用事が重なっただけかも知れない。そう思って時計を見上げると、本日の業務は既に終了していた。
「一声かけてくれればいいのに……」
集中しているのに気を遣って、静かに出て行ったのかも知れない。書類に集中しすぎて、かけてくれた声に気付かなかったのかも知れない。そう思ってみても、がらんとした部屋に一人取り残されるというのはなかなか寂しいものがある。
自分の仕事が一段落ついたこともあり、マンは溜息をついて立ち上がった。
この寂しさは、最近自室に居着いているガヴァドンでも撫でて発散しようか。そんなことを考えながら、帰り支度をしていると。
「マン! 今帰り!?」
「ゼロ? うん、そうだよ」
目を輝かせたゼロが、執務室に飛び込む勢いで入ってきた。
「ちょっと来てくれよ!」
「え? 何? なんで?」
「いいから!」
やり取りをする間すら惜しいとばかりに、ぐいぐい腕を引っ張られて走る。
「ちょ、ちょっと、ゼロ?」
どこに行くんだ? 問いかけても、ゼロは「秘密! 来てくれればわかるから!」と笑うばかりで。訳のわからぬまま連れてこられたのは、警備隊本部で一番広い休憩室の前だった。
目をしばたくマンに、ゼロが問う。
「あんた、地球好きだよな?」
「好きだけど……」
それが、今何に関係があるというのだろう。
首を傾げたマンに、ゼロは無邪気な笑顔で告げた。
「あんたに、プレゼントがあるんだ!」
みんなから!
ゼロの手が、休憩室の扉を開く。開かれた扉の向こう、眼前に広がった光景に、マンはぽかんと立ち尽くした。
桜舞う、春。波の打ち寄せる夏。木々が鮮やかに装う秋。雪の沈黙と白に包まれる冬。
彼の愛する、地球の四季の風景が、小さく切り取られて並んでいた。
「ちきゅ、う……? なんで?」
目を丸くするマンに、休憩室の中で待っていた面々が一斉に吹き出した。
「マン、よく見ろ」
セブンに促され、よくよく見てみると、白い雪はティッシュで出来ている。桜の花はピンク、波飛沫は様々な青、秋の木々は橙色、茶色、黄色、赤を絶妙に組み合わせて染めたものだ。
「エース兄さんの提案なんだよ。元々はメビウスとゼロだけど」
ますます目を丸くするマンに、タロウが言った。
「二人が、マン兄さんに何か贈りたいって言ってさ。地球の物を使って。エース兄さんが、ティッシュで地球の景色作れるんじゃないかって」
そうなのか? と視線で問うマンに、三人はそれぞれ頬を染めた。ゼロは照れ隠しにかそっぽを向き、メビウスははにかんで笑っている。エースは頬をぽりぽりと掻いて、苦笑した。
「本物にはほど遠いけどさ……、地球気分、味わって貰えたらなって」
「一瞬本物かと思ったよ……」
そう呟いたマンは、愛おしげに小さな手作りの景色を眺めた。
触れるとふわふわした感触を伝えてくれる、手作りの地球。今日、やけにばたばたしていたのは、これの仕上げに奔走していたからのようだ。
これだけのことをするには、この休憩室はここ最近貸し切り状態だったのだろう。他の隊員達に申し訳なく思いつつも、皆の気遣いが嬉しい。温かい感情が湧きだして、溢れてしまう。
「なんだか、みんなに色々してもらってばかりだな」
私も何かしなくちゃ、と言うマンに、ゼロは慌てて首を振る。
「いいって! 俺達がやりたいって言っただけなんだから!」
「そうですよ。見返りが欲しくて作ったわけじゃないんです」
ティガも同調して言うと、周囲は揃って頷いて見せた。その気持ちは本当に嬉しいのだが、マンの気が済まない。
「じゃあ、今度、みんなでお茶しようよ。私がお菓子作るから。……それだったら、みんな来てくれるよな?」
「わあ、いいんですか兄さん!」
「やった! マンさんのお菓子って美味しいから大好きなんだ!」
にっこりと、笑顔で放たれた言葉に、皆は少し硬い表情で頷いた。ガイアとメビウスなどは無邪気に喜んで頷いているが、有無を言わせぬ強固な意志すら感じさせたのだ。――ともあれ、マンの作る料理は美味だし、断る理由もないのだが。
約束を取り付けて満足したのか、マンは視線を風景に移す。様々な青と緑に染めたティッシュを敷き詰めた海を見て、アグルを振り返った。
「アグルまで手伝ってくれたんだ?」
「むしろ、海作る時に一番張り切ってたぞ」
ゾフィーに言われて、アグルはふん、と鼻を鳴らす。
「適当に作った海など、断じて認めん」
「海はアグルそのものだもんねぇ。特に地球のは」
ほけほけと笑うガイアが、ヒカリを振り向いた。
「ねぇねぇヒカリ。早く撮ろうよ」
「ああ、そうだな。じゃあ、みんな並んでくれ」
頷いてヒカリが取り出したのは、彼愛用のデジタルカメラだ。部屋の隅に置かれていた三脚をセットし、風景をバックに並ぶよう、皆に指示を出す。
「ゾフィー、セブン! 睨み合うな! ティガにゼロもだ! マンの隣なんぞじゃんけんで決めろじゃんけんで! というか、仲良く分け合え!」
鋭く突っ込みを飛ばしながらカメラを三脚につけ、タイマーをセットした。わたわたと配置についた全員が、ゆっくりとフラッシュ部分を点滅させるカメラに注目する。段々と点滅が早くなり、シャッター音が響いた。
「……いかがでしょう、銀隊長」
「素敵ね。ありがとう、ヒカリ。あの人にも見せてあげなくちゃ」
うきうきと礼を言ったマリーは、ヒカリの持ってきた写真を慈愛溢れる微笑と共に撫でた。
そこには、手作りの地球の風景を背にして並んだ彼女の愛しい子供達が。
それはそれは幸せそうな笑顔で写っていた。
end
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>>綾音嘉樹様
前年度のMH祭で初特撮に挑戦してくださった嘉樹様!
今回も私の愛する初代を目一杯幸せにしてくださいました。
これまでの作品
ウル虎、私も好きですvv
ティッシュで風景を作るなんて、子供の頃の学芸会や文化祭を思い出し、とても懐かしくて幸せな気分になりました。
初代をみんなで幸せにしてあげる、そんな兄弟仲間たちの心遣いや、最後の写真、ほんわかしました。
ありがとうございました。
「題○の無い音楽会」での
マンさんやセブンさん、ゼロさんの活躍を
思い出しつつ拝読しました。
皆さんの、マンさんへの愛情と尊敬が
伝わってきて、ほっこり暖かな気持ちに
なりましたv
写真は皆で撮りたいと考えたり
海を適当に作るのは許さないと思ったり
愛のあるこだわりが素敵です!
素晴らしい程のマン愛!なんていうか、こんな素晴らしいプレゼントをしてマンを喜ばせたと言うのは流石兄弟馬鹿たち(笑)だとも★
いやあ、凄く良かったです!
ウル虎、お好きなのですか!嬉しいです……!
ティッシュで何が出来るか考えて学芸会や文化祭の工作に辿り着きました!^^
懐かしさと幸せをお届けできたとのこと、とても嬉しいです……!
大和様の作品も、心より楽しみにしております……!
コメントありがとうございました!
マン兄さんを幸せにしたいあまり、ティッシュで工作をせっせとこなす兄弟+平成組+ゼロと相成りました……!
優しく幸せ、と仰って頂けて光栄です!
コメントありがとうございました!
サイトをご覧頂いているとのこと……!ありがとうございます!
とても勿体ないお言葉まで頂き、私まで幸せです……!
ありがとうございます!
こちらこそ、コメントありがとうございました!
そしてありがとうございます、矢野様!
確かにあいつら学園モノのノリですね……! 私もコメントを頂いて初めて気付きました!(笑)
多分夜中も時間を惜しんで工作に励んでいたと思われます!
全てはマン兄さんの為に!^^
今年も特撮で参りましたが、沢山の方の「幸せ」を拝見できること、心から嬉しく思います……!
コメントありがとうございました……!////