ジーッ…
背中に刺さる視線が痛い
振り向かなくてもわかるこの熱い視線の持ち主を思い描いて、ため息
対面するカイルの困ったような笑みに同じように笑って頷いて、さりげなく振りかえる
すると…
「ひゃっ!!ひっ!退かぬか!ミアキス!」
壁から覗く見馴れた服の裾に、聞こえてくる声
それでもバレてないと信じているその気持ちを汲んで、視線をカイルに戻す
なのに
バタバタと騒々しい物音に、微かに聞こえる言い争い
これにはつい笑ってしまった
「王子ーシーですよー」
パチンとウィンクのカイルに笑い返す
「ここは危ないから来ちゃダメだって言われているのに…」
ポツリと溢せば、ゴホンと咳払いに顔をあげる
その先にキリリと厳しい表情のガレオンの、内心困り果てた瞳がやっぱり僕の後ろを射貫く
部屋の中に入ってきているのならば、叱り、帰すことができるが…今彼女達は部屋の外だ
それに、ふざけてるようで、きっちり部屋の中様子を把握しているミアキスが彼女に付いている
だからって、危険がないわけじゃないんだけど
「「「全く…」」」
図らずも、3人同時にため息
そして、深呼吸
「ーーー時間だ。両者共、準備はよろしいか?」
威厳溢れるガレオンの声に、気持ちを引き締めて、目の前のカイルを見据える
「今日こそ一本とってやる!」
「そう簡単にはいきませんよー」
目下全敗中のカイルとの模擬試合
今日こそ雪辱を晴らすべく、グッと手に力を入れて気を引き締めて
「ーーー始め!」
ガレオンの掛け声と共に、先手必勝と飛び込んだ
ーーー
「まぁた見事にぼろぼろになりましたねぇ王子ぃ」
「兄上!大丈夫か!?」
溜め息つくミアキスの隣で、泣きそうな彼女ーリムーの頭を撫でて、力なく笑う
「うう…大丈夫…ごめんねリム、カッコ悪い所みせて…」
シュンと肩を落とす僕に、ブンブンと首を振り、リムは笑顔を見せてくれた
「そんなことは無いぞ!兄上!惜しかったのじゃ!」
「そうですよー王子ー、ちゃんと力ついてますよー」
だから、そんな落ち込まないでくださいー
カイルの言葉に、力なく頷き、翳されるカイルの手に軽く目を閉じる
ホゥとカイルの持つ水の紋章が発動したその時
「あぁ~カイルちゃん~サイアリーズ様が手を振ってらっしゃいますよぉ~」
ミアキスの言葉に、紋章の光は消え、思いっきり期待を込めて振り返るカイル
「ちょっと待とうか、目の前の女王騎士」
その素早さに思わず目を開け悪態をつくも、直ぐに相変わらずだなぁと笑ってしまった
ピリッ
切れた口に軽い痛みが走り眉をしかめたその時
ペタリ
切れた口の端に何かが貼られた感触
「へ?」
驚いてそこに触れれば、小さな絆創膏がペタリ
…傷口にテープの部分が被っているんですけど…
それは思うだけに留め、そんな無粋な言葉は吐くまいと、口を紡ぐ
だって
「兄上!わらわが治癒してあげるのじゃ!」
ニコニコと、誇らしく笑うリムな手には新品の絆創膏の箱
だって、貼ってくれたのが、最愛の妹だもの
剥がすときの痛みなんて問題ない
「リム、ありがとう」
「うむ!水の紋章など無くてもわらわは兄上治癒してあげることが出来るのじゃ!」
満足そうに頷くリムに、腰に手を当て、ベーっと舌をだすミアキスも笑う
「姫さまぁ?それ誰が姫さまにあげたんでしたっけぇ?」
「えー、姫様ー、俺の仕事とるなんて酷いですよー」
ニコニコ笑うカイル
「さっ!兄上!わらわに任せるのじゃ!」
鼻息荒く息巻くリムに腕をとられ、痛みを感じる場所に貼られていく絆創膏
ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ
甲斐甲斐しいリムの治療
最初こそ、照れ臭くも嬉しさが勝っていたけれど
貼られていく絆創膏の多さに情けなさが募る
「…こんなに傷だらけだたたんだ…」
カイルが水の紋章が得意なのもあって、小さな傷は直ぐに綺麗になる
…それにカイルは残るような傷をつける事はない
まだまだ気にかける余裕があるからだ
ある意味、見ないふりをしていた自分の実力を改めて感じた
貼られていく絆創膏の多さが、今の僕の本当の実力なんだと、痛いほど
「よし!これで最後じゃ!」
ペタリ
その声に、いつの間にかとじていた瞳を開き、散乱したゴミの山を目の当たりにして、正直落ち込んだ
けど
「兄上!どうじゃ?痛いの無くなったか?」
嬉しそうに笑うリムを見たら、心がポカポカ暖かくなる
「ありがとうリム、もう痛くないよ」
その優しさが、一番の傷薬だから
「そうか!もう効果が出たか!…どうじゃ!ミアキス!紋章などわらわには不要じゃな!」
勝ち誇るリムをクルっととドアに向けて、ヒラヒラと僕らに手を振るミアキス
「そぉんなこと言ってもダメですよぉ~はい、紋章のお勉強の時間ですぅ」
「なっ!ミアキス!もう少し…!」
トンっとリムの背中を押して進むミアキスが、不意に振り返り、パチンとウィンク
「男前度上がりましたねぇ~王子ぃ」
「くっ…!!」
飄々と笑うミアキスに背を押され、カタカタと、残りの少なさを物語る音をさせ、手を振るリム
「兄上!怪我をしたら何時でもわらわが治癒してあげるから、安心して怪我をして良いぞ!」
満面の笑みで手を振るリムに手を振って見送る
そして、姿が見なくなってからポツリ溢す
「毎回、こんなに傷だらけだったんだね」
「多少大袈裟に貼られますよー、そんなに落ち込まないでくださいー王子ー」
それに、とニコニコ僕の頬に貼られた絆創膏を指差し
「絆創膏は男の勲章ですよー」
励ましになりきれていないカイルの励ましに肩を落とす
「…リムがあんなに張りきってるの見ると、心苦しいけど…」
ベリッと頬に貼られた絆創膏を剥がし、ピラピラと指で揺らす
「これが必要無くなるぐらい、強くなるよ」
安心して怪我をして、だなんて…治療してくれるのは嬉しいけれど、僕にだって男としてのプライドがある
「その意気ですー王子ー。俺で良ければ幾らでもお相手しますよー」
頑張りましょー
グッと差し出された一枚も絆創膏の貼られていない綺麗なカイルの拳を羨望の目で追い、絆創膏まみれの自分の拳に視線を落とす
絆創膏は男の勲章
綺麗なカイルの手だって昔はきっと今の僕と同じだ
貰った分だけ強くなる、努力の証
グッと握り締めて、コツンとカイルの拳にぶつけて空高く突き上げた
「おー!」
嬉し、切ない男の勲章にまみれて僕は強くなる
絆創膏は男の勲章…貼られた分だけ僕は絶対に強くなる
そう決意して、絆創膏まみれの僕の拳に目を細めた
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♪作者様案内♪
>>珠歌様
特撮サイトの管理人様ですが、なんと今回初の幻水5に挑戦してくださいましたっ!
珠歌様らしい優しく暖かな雰囲気のストーリーテイクが光ってます★
これまでの作品
「マリーゴールド」
そんな素敵な作品をありがとうございました、珠歌様!
兄妹が可愛すぎて、とてもほっこりと温かい幸せを頂きました……!//// ありがとうございます!
王家+騎士は私も大好きなので……っ!
一生懸命なリムと、勲章の分強くなろうとする王子に、本編を思い出してぶわっとなりました……!
素敵な幸せ、本当にありがとうございました!
前回のマリーゴールドの時も思ったのですが、文章の端端に柔らかさがにじみ出ているのですよ。言葉の使い方が、お上手。
見習いたいです。
幻水もこれまた好きな作品なので!
リムがかわいいのです!
こんな可愛い妹に絆創膏ぺたぺた貼ってもらった王子の、なんとも言えない優しい顔が、ポンッと浮かんできました。そして、それを見ている騎士たちの笑顔も!!
ありがとうございました~。
だからこそ新たな世界との
出会いを下さるこのお祭に感謝しつつ
拝読させていただきました!
目標となる人がいて、でも届かなくて
情けなくなって、でもそんな自分を
支えてくれる人達がいてくれて
だからまた頑張れる…
切なさと向上心が入り混じった
王子様の気持ちにキュンと来ました!
自分ももっと頑張らなきゃなと思いました。
本作の結末を知ってるからこそ、こんな光景があったらなvその思いを沢山込めさせていただきました!
このような機会を頂けて本当に矢野様に感謝しております!
そして嬉しいコメント、重ねてお礼申し上げます!
ほっこり幸せ気分になって頂けてただなんて…!
嬉しくて言葉がありませんvありがとうございます!!
兄妹、可愛いですよね!
幸せな時の彼等が書けて、私も幸せでした!
コメントありがとうございました!
なっなんて光栄なお言葉…!!
嬉し過ぎて、一回画面を閉じてしまいました(笑)本当に嬉しくてたまりません!ありがとうございます!
兄妹に萌えてくださってありがとうございましたv一生懸命なリムにされるままの王子。それを見守る騎士達…。
本作では少ししか見れなかった幸せ、届けられて嬉しいです
コメントありがとうございましたv
胸キュン、ありがとうございます!!
そして王子になんて嬉しいお言葉の山…v嬉しくて、顔がニヤニヤしてしまいました(笑)
幻水という新しい世界に出会うきっかけとなれて嬉しいです!
素敵なコメントありがとうございました!