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夢捨て場
日常報告及びネタ暴露専用のブログです
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2008/07/06 (Sun) 22:48

何故か突発、三期ss
地獄童子と鬼太郎のお母さん。(なんて訳の解らない組み合わせっっ!!!!)
つづきから↓↓↓

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そして私はここにいる::
 
  
 お世辞にも美しいとは言えない、険しい岩肌の山の上。漆黒の髪を靡かせてその人はいた。
 特に用があったわけでもない。しかし目に付いてしまったし、取り分け無関係という仲でも無かったので、地獄童子はその後ろに飛び降りて話しかけた。彼は自分でも思うが、大層な気分屋だった。
  
 
「よう、鬼太郎のおふくろさん」
  
 
 ゆらり、と死人特有の滑らかな動きで、彼女は振り返った。
 そして優雅に微笑む。まさかあの少年が、この母親から生まれたとは到底考えられない程の美しさだった。これを言えば勿論、本人は目をつり上げて怒るだろうが。
 
  
「調子はどうだい? おっと、地獄に調子も何もねぇか」
  
 
 地獄童子はへらへらとおどけながら、鬼太郎の母親に歩み寄る。彼女はひび割れた岩肌の合間にある、小さな水たまりを見ていた。
 そこは地獄に住む者達の間でもあまり知られていない、人間界を映す、小さな鏡だ。ちらりと目をやれば、彼の少年が戦っている。
 人間界でも戦い続けるのか。
 難儀な事だ。
 地獄童子は呆れ半分、同情半分で水の中の少年を見る。ああ、いつものメンバーも勢揃いだ。唯一人、あの何処までも鬼太郎に付いていったひたむきな人間の少女は見当たらなかったが。
 
  
「鬼太郎は元気そうか」
「ええ」
  
 
 この時初めて、母はその薄い唇を開いた。
 
  
「一生懸命、戦っています」
  
 
 その言葉に、地獄童子はふと地獄で何処までも戦い抜いた少年の姿を思い浮かべる。
 
 思えば最初から最後まで戦ってばかりの少年だった。彼に平安というものが果たして存在するのかどうか。それすら訝しく感じる程に。
 
 それでもこの横にいる当人の母親、そしてここからでは見えないが、おそらくあの髪の中に潜む目玉の親父、この二人は我が子に戦えと命じた。戦いながら、尚戦えと。何処までも戦い抜け、と。
 
 何と酷な事を言う父母だろうか。普通両親というものは、我が子を危険から遠ざけようとしまいか。
 
 地獄童子が水たまりの中の少年を見つめていると、ふと女は自嘲気味に唇をつり上げた。そこから蚊の鳴く様な、細いため息が漏れる。
 
  
「酷な母とお思いでしょう」
  
 
 ぎくりとした。地獄童子は「何のことだ」と誤魔化した。
 
  
「戦いの中に身を投じた我が子に、それでも尚戦い続けろと命じるこの…私を。そして夫を」
  
 
 返答出来ない地獄童子に、彼女は再び微笑む。母の微笑みとはこう言うものか。包容力のあるその笑みに、地獄童子は小さく息を吐いた。
 
 
「妖怪の名誉に掛けて…あの子は人間を守ると言ってくれました。戦うと言ってくれました。私はそれが嬉しかった。唯…今でも悔やまれてなりません。あの様な状況だからと言って、我が子に別の言葉は無かったのか、と」
 
 
 口惜しい、とその唇が動く。声は出ない。でも肉体無きその霊体からこぼれ落ちる想いの欠片が、地獄童子の心に刃の様に刺さった。
  
 
――私が罪を犯したばっかりに…
  
 
 再び、想いの欠片が硝子の破片の如く地獄童子の耳に入った。
  
 
――あの子は戦いを強いられる。
  
 
 なんて愚かな事をしただろう。自分の罪の為に子が苦しむとは。せめて自分が妖怪であったなら。せめてあの人が人間であったなら。出逢わなければ。愛さなければ…
  
 
 懺悔でもするかの様にぽつぽつと語る母に、地獄童子はふと苛立ちが生じる。初め、折角鬼太郎と人間界に戻ったはずの母が、再び閻魔大王の元に戻ってきた姿を見て驚いた。何処までもやり抜いた、自分の信念を貫いた、もう悔いはない、とばかりに微笑みを湛え、閻魔の元に戻ってきた彼女。
 閻魔はその姿を見て天生を提案した。己の命を若者に捧げた彼女に、もう罪は無いだろうと。
 皆がそれに同意した。
 しかし、目の前の母親だけは違った。
  
 
――いいえ。
  
 
 頭を振る。ゆるゆると頭を振り、彼女はその提案を自ら断った。
  
 
――私は、地獄で我が子を何時までも見つめ続けます。
 
 
 そうか、そう言うことか、と地獄童子はこの時になって気付いた。
 あの言葉はそう言う意味だったのか。
 
 地獄にいることは、我が子への懺悔か。まだ悔いているのか。
 それでは何の為に鬼太郎は戦った? 何の為の親孝行だ。親が我が子の頑張りを認めなければ、親が許されたと感じてくれなければ、何時までも鬼太郎はその責任を負うことになるのだ。鬼太郎は自分の出生を悔いるのだ。
 
 
 悔いるな、と地獄童子は叫びかけた。
 懺悔するな。後悔するな。自分は何も間違ってはいないと、堂々と告げろ。罪を受け入れるな。罰を受けるな。子に己の責任を押しつけるな。
 
 
 しかし開いた口から漏れたのは、別の言葉だった。
 
 
「あんたさ、今、あいつは妖怪の名誉の為に戦ったって、言ったよな」
 
 
 地獄童子は水たまりを見る。
 
 
「たぶん、違う。確かにあいつはそう言ってたけど、たぶん…途中から違う」
「?」
 
 
 母が地獄童子を見て、ふと首を傾げた。
 彼は続ける。
  
 
「自分の母親が人間だと知って…あいつは、たぶん自分の中の人間の血を守ろうとした。あの娘を守ることであんたを…人間であるあんたを守ろうとしたんだ」
「―――…」
 
 
 母の目が僅かに見開かれる。
 その唇が僅かにわななく。地獄童子は後は自分で考えてくれ、と脳裡で囁いた。自分で気付いてくれ。そして何時か…
 何時の日か。
  
 
 地獄童子は踵を返した。
 母はまだ地獄童子を見つめる。
 地獄童子はそのまま挨拶もせずに駆け出した。そこから、離れた。飛び出した。
  
 
「―――…」
  
 
 母は見つめる。
 彼の足を、その背中を、自由に羽ばたく鳥と連想させて。
 
 そして母は再び我が子を見る。
 
 彼は人間に微笑みかけていた。救った人間に笑っていた。人間も彼に喜びの笑みを浮かべていた。
 
 気が付くと母の双方の瞳から、止めどなく涙があふれ出るのだった。
  
 
 --
戸田母さんと地獄童子。
妙な接点…?
 
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