おっっまたせ致しました~!
MH祭夢草紙 第一幕……
この記念すべきトップバッターを努めてくださるのはなんと!
既にRDGの企画では欠かせないあの方、大和様が駆けつけてくださいました!
ジャンルは待ちに待った幻水!(時間軸は4~1)
忌まわしい紋章、ソウルイーターをその手に宿すテッド……
彼の見た悪夢は……
「つづきは~」からご覧ください!
大和様の描く、彼のもの悲しい悪夢を……
「魂(soul eater)喰」 (幻想水滸伝)
血流れて杵を漂わす――この広大な沃野で二つの国がいがみ合い、殺し合った。
沢山の血が流れ、沢山の人間が殺された。その血で杵(大楯)が浮く。誇張された表現じゃなく、現に俺の足下はおびただしい血が、ある。
人間同士、何故戦わなければならないのか……。と、そんな青臭い理想論を吐く気はさらさらない。人間の中に潜む獣の本能が破壊衝動を生むのだと、知っている。それを、やれ国の繁栄だ、威厳だ、と、高々と謳って目隠しをしているだけだ。
血の海には骸が折り重なっている。腕を切られ、耳をそがれ、目に鏃(やじり)が刺さっているものが、俺の近くにあった。若い兵士のような気もするし、年を取った兵士にも見える。年齢が分かり難い程、その白い顔は恐怖と絶望と怒りを含み、これでもかという位目を見開き、顔中に皺が走っていた。
……知ってる奴かも知れない、とも思ったが、そんな筈は無い。
俺がここに来たのは偶然だと思う。
否、気が付いたらここに居た。
足を動かせばぬかるんだ赤い大地。持ちあげた靴先からは血がぽたりと滴り落ちた。血が落ちた先にも、兵士が付けていたであろう欠けて汚れたヘルメットが転がっている。
目を転ずれば。
人形のような骸の林の奥に、誰かが立っていた。
そいつは、細身の身体をし、長い髪をひっつめて後ろで一つにまとめている。
そいつは、弓矢を背負っている。
――そいつは、俺と同じ得物を持っている。
横顔は何だか覇気が無く、頼りなく、ぼんやりと上空を見ていた。空の蒼は深く、そいつはその蒼と大地の赤の間でひどくアンバランスに浮いて見えた。
……アンバランスなのは、俺か?
俺はそいつを知っている。
嫌になる程おせっかいで、ムカつく程優しい男。
「空の蒼は、哀しいね」
ゆっくり開いた唇から、そいつの声が流れる。哀しいね、と、繰り返しながら俺を見た。その澄んだ目が俺を捉え。俺は……たじろいた。
そいつから離れる為に、一歩後ろへ下がった俺の右手が、突然激しく痛みだした。
「うっ……!」
火傷のようにひきつる痛みと熱を持ち、芯から疼く右手を、俺は左手で押さえこみ、蹲った。
――欲しいのか。
「テッドくん?」
そいつが俺の異変に気付き、近寄ってくる。
来るな。
来るんじゃ、ない。
「テッドくん、どうしたんだい?」
――喰いたいのだろう。その飽くなき食欲、底を知らず。
――ソウルイーター……。
――この地で斃(たお)れた兵士の魂だけでは、飽き足らないのかっ!
生と死を司る紋章。
忌々しき呪いの紋章。
27の真の紋章のひとつ。
お ま え は ……っ!!
「テッドくん!」
俺の苦しみをまるで分かっていない呑気なそいつ――アルドは、俺に近付き、俺の肩に手を置く。右手が焼けるように痛くなり、しっかりとはめていた手袋が破裂した。
右手の甲に浮かぶ、死神の鎌。焼印のように赤黒い紋章――ソウルイーターが、嗤(わら)っている。
そして――!
そして、目が覚めた。
暫く俺は見当識が曖昧で虚ろなまま、荒い息を吐きながらまだ暗い部屋の中で、身を固くしていた。
全身に嫌な汗が噴きだしている。つうっと伝わった頬の汗がシーツを強く握っていた手の上に落ち、そのやけに冷たい感触に俺の意識は現実に立ち戻る事が出来た。
――夢、だったのか。
「はぁ」
肺の中の全ての空気を吐き出すように俺は深い溜息をし、額をシーツの下の膝に付け――三角座りのように丸くなった。汗で身体は冷たいのに、吐く息は熱い。異様に高い心拍数が耳に響き、頸動脈までも震えるように激しく拍動を伝えてくる。
「……ったく」
吐き出す。腹の底からえぐり出すように、言葉を吐き出す。
「何だよ何だよ何だよっ……」
両手を力一杯膝に叩きつける。ぼすぼすとシーツでくぐもった音が何度もする。
――何であんな夢を見た。
何であんな――死が蔓延する夢を見た。
そんなもの、俺は望んじゃいないのに。
右手の手袋を、外す。暗闇の中でも炯々と見える死神の鎌のかたち。
――欲しているのは、この紋章だ。
「ソウルイーター……」
呪われた真の紋章。その名が示す通り、魂喰いの紋章。近しい人の魂を喰うこいつの為に俺は人の死を嫌という程見て、この紋章に――魂を喰らわせ続けてきた。
だから、人を寄せ付けたくないのに。
誰にも頼らず、一人で生きて行かねばならないのに。たとえ禍しい紋章であっても故郷の祖父との約束、あの女魔術師の魔の手から紋章を守り続けなければならないのに。
あいつは――アルドは。
群島戦争で俺は「罰の紋章」の主に助けられ、一緒に戦い、アルドという能天気な男と知り合った。
アルドは、馬鹿だ。
このソウルイーターの呪いを少し話してやったのに、俺に近付くなと忠告してやったのに、それなのに俺を気に掛け、俺に近付き――今、同じ宿屋の別の部屋に居る。いくら俺が奴を避けても奴の方からやってくる。俺の旅に道連れなどいらないのだが、アルドは、いつの間にかその立場になっていた。
全く。
そんな馬鹿な男が、あの夢の中で儚く――天の蒼と地の赤に吸い込まれそうになっていた。
哀しい、と言いながら、優しい顔を俺に向け。
「ソウルイーターよ……頼むから」
俺の近しい人たちの――大切な人たちの魂を、これ以上喰わないでくれ。
俺の悪夢を、おわらせてくれ――
長い――気の狂いそうな程長い年月が過ぎ。
雨の中、女魔術師の風の魔法に全身を切り刻まれた俺は、力が抜けそうな足を辛うじて動かしながら親友の屋敷へ向かった。
裂かれた服から覗く肌に血が滲み流れ、叩きつけるように降る雨に混じり地面にまるで赤い血の花びらが落ちる。花びらは雨に素早く流された。戦場の血の海とは全く違う。存在等、簡単に消せる事が出来る、雨。俺は、屋敷の扉を開けた。
「テッドくん!?」
グレミオさんの声。慌ただしい足音。そして――ボウ。
驚いたような、泣きそうな、そんなボウの顔を見ていると、俺は何故が昔の――友人を思い出した。
俺の身体にはもう力が無い。
紋章を守る事は、出来そうもない。
――俺は、ボウに縋った。
「俺は、お前にひどい運命を与えてしまうのかも知れない。
お前の、これからの人生に、悪夢しか見せてやれないかも知れない……。
だけど……。
俺の『一生のお願い』を聴いてくれっ。
……『ソウルイーター』を、俺の代わりに、守ってくれ」
俺は目を見開くボウの腕を強く――痕が付くほど強く握った。
途端に――分かってしまった。
俺の300年。俺の命。
真の紋章に弄ばれた俺の時間。
ボウの腕を掴んだソウルイーターが、喜んでいる。
真の出会いが果たせた、と……。
そうか。
お前は――俺は――そうだったのか。
――ひとつの悪夢が消え、そしてまたひとつの悪夢が生まれた。
だけど……俺はもう疲れたんだ。
このまま、静かに眠らせて欲しい。
――アルド。
もうすぐお前の近くへ行けるような気がするよ。
<fin>
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テッド……アルドっっ……!!! この二人の関係は暖かいのに切なすぎるっっ!
初っぱなからぐぁし、っとひっ掴んでくださいました大和様!
私この二人の話あんまりしていないけれど実は大和様、私がこの二人が好きだってこと知ってた!?
と思わずPCに食いつくように読んでしまいましたvv
トップを飾るに相応しい作品! 大和様、本当に素敵な作品を有り難うございました!!