何とか20幕越えしました……! 本当に皆様、ご協力有り難うございます!
MH祭~夢草紙~ 最終章。
ここに来てようやっと鬼太郎書きました……ふふ、久しぶり鬼太郎。
とりあえずこれでシメさせて頂きます!
「つづきは~」からどうぞ!
三枚のお札::
「三枚のお札」って知ってる? あの山婆が追い掛けて来るヤツ。
ボクあれがすっごく苦手で、よく夢に出て来るんだ。
知らないお寺のようなところで、山婆に追い掛けられるの。ホントに怖いんだよね、白髪の骨と皮だけの婆が鬼みたいな顔で追い掛けて来るんだもん。
そして必ずトイレに逃げ込むんだ。今みたいなきれいなトイレじゃないよ。ボットンってヤツ。狭いし暗い。とにかくそこにいるだけて相当怖い。
そのトイレが変なんだけど、鍵がさ、ちゃんと鍵穴に鍵を差し込むタイプなんだよね。ボクは鍵を持っている。慌てて鍵を閉めようとするところで、いつもなら目が覚める。
でも今日はなんか違った。ボクは鍵をかけた。あいつがこちらに迫り来る間に、鍵をかけた。あいつに追いつかれる直前に鍵をかけた。
でもボクは目が覚めなかった。そんな気配もなかった。あれ、って思ったけどそのままなんだ。ボクは何というか、夢に取り残された。そんな感覚すらした。
物語は進む。
驚いてるし、怖いけど、どうしようもないボクを無視して。
トイレの薄っぺらい扉が、がたがたいった。あいつが来た。
こんな板一枚の向こう側に、あいつがいるんだ。
ボクに逃げ場は、もちろん後ろの格子窓だけ。
でも高い。届かない。
話が違う。
ボクは慌てて跳ねた。やっぱり、届かない。
「長きにわたる遊戯もこれでしまいじゃ」
しわがれた声が扉の向こうから響いた。
「今日こそお前の血肉を喰ろうてやろうぞ」
今の今まであった夢気分が、完全に消えた。生まれて初めてボクは命の危機を感じた。
どうする、とトイレの中を見回す。逃げ場は、とぐるりとその場で回る。
どこにもない。どこにもない。待て、おかしいだろ、何でこんな。
夢なんだから、早く覚めてしまえ。
吹き出す汗は本物の様にも感じられる。本当にこれが夢なのかどうかもわからなくなってきた。
そんなボクの目に、トイレの鍵穴が映る。何故か目が放せなくなった。少しだけ錆び付いたその鍵穴に、目が釘付けになる。
その時、不意に鍵穴に異変が起きた。
鍵穴から、何かが音も無く流れた。
つう、と一筋の赤い糸……違う。それは糸ではない。糸なんてものじゃない。少し黒みがかった……液体、が。
―――血。
それが血、だと気付いたとき……僕は何となくわかったんだ。
今奴はこの細い鍵穴に、指を突っ込んでる。
ぐりぐりと指を突っ込んで、鍵を開けようとする。そんなことで開くはず無いのに、無理矢理指を突っ込む。
突っ込んで、突っ込んで、そして……
それ以上想像して、僕は思わず頭を抱えた。目を閉じたいのに、これから目を離した瞬間が恐ろしくなった。
既に夢という意識はない。僕は夢という現実の中にいる。夢という異世界に存在している。
逃げ場はない。逃げ道は無い。
いたぶるように鍵穴から扉を伝う真っ赤な血。
ゆっくりと降下し、何時しか床につくだろう。床について、その後はどうなる? もしかしてこっちに来る?
床を伝って今度はこちらに来るの? そして追いつめられたらどうなるの?
「嫌だ」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
考えるのも想像するのも何もかも嫌だ。
助けて助けて助けて助けて。
僕は静かに扉を伝う血を見る。それを目で追ってしまう。
そうして、扉の下の部分まで見えた。僕の視界に入ってきた。
それを見てしまった。
扉の下に、隙間なんてあること知らなかった。知らなかったんだ。だから見てしまったんだ。
―――こちらをのぞき込む、充血した目を。
「ひっ……!」
恐怖に声ならぬ声をあげ、僕は壁際まで後退した。その目がきゅう、と細められた。もう逃がさないと僕に告げた。
そこから血まみれの手が伸びて、床をひっかく。こちらに懸命に入り込もうとする。あんな隙間から入れるはずがない。そう思うのだけれど、不安は更に増すばかりで。
ああ、鬼でも悪魔でも何でも良い! こいつをどうにかしてくれ!
思わず心の中で叫んだ。それはもしかしたら声になっていたかも知れない。実際に叫んでいたかも知れない。
そのとき。
「ギッ……!」
不意に、悲鳴とも言えぬ奇妙な声をあげて、隙間の目玉が消え去った。手も血の痕だけ残して引っ込んだ。
突然のことになんだ、とトイレの隙間を凝視する。
思わず頭から手を離せば、扉の向こうで聞こえる喧噪。それは数秒経つと、断末魔が響いてぷつ、と切れてしまった。
静寂の中、カランコロン……と不思議な音が聞こえる。
「もう大丈夫だよ」
出ておいでよ。
不意に、少年の声が扉の向こうから響いた。
僕はへ、と扉を見る。コンコン、扉をノックする音が聞こえる。
「アツシ君、もうあれは僕が退治したよ。大丈夫だから出ておいで」
「―――……」
確かに、あのおぞましい老婆は消えたようだ。
しかし誰が?
あの山姥を一体誰が退治したって言うんだ。
僕はおそるおそる、扉に向かって歩く。
まだ恐怖は消えない。見知らぬ少年の声に、まだ疑心は消え去らない。これが父さんや母さんの声だったらどんなに心強いか。
僕は鍵に手をかけた。真っ赤に塗れる鍵穴に、鍵を差し込むのは非常に勇気がいる。しかし、何とかこらえて鍵を開けた。
「あの……誰……」
そして僕は慎重に扉を開く。
ギィ、と軋んだ音を挙げる扉。
隙間からのぞき見れば、目の前には誰もいない。
あれ、と僕は視線を下ろす。無意識にす、と視線を下ろした。その先に……
「……やァ」
真っ白な目玉に、一点の漆黒。
不気味にこちらをのぞき込んだ何かの唇が、きゅっと弓なりにつり上がって……
―――夢の中だというのに、僕の意識はどこかに吹っ飛んだ。
* * *
「……折角助けてあげたのに」
失礼しちゃうなァ、と憮然とした様子で鬼太郎は呟いた。それに猫娘はからからと声をあげる。
「仕方ないわ、鬼太郎さん。人間ってのは大概肝が小さいものよ」
「そりゃそうだけどね」
唇をとがらせて、目の前でこんこんと眠り続ける少年の顔を見下ろす。その顔はどことなく青い。敵は倒したはずなのに、まだうんうんうなされている様だった。
隣では砂かけ婆がこきこき骨を鳴らして呟いた。
「全く……人の夢に行くのも骨が折れるわい」
「何とか間に合って良かったじゃない。さすが鬼太郎さんだわ、すぐにけりが付いた」
「みんなのおかげさ。ありがとう」
さ、帰るか。
大きく欠伸を漏らして、鬼太郎はカランコロンと下駄を鳴らす。
朝日がゆっくりとカーテンの隙間から差し込んだ。
そのときは既に、鬼太郎たちの姿は煙のように消え去っていた。
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と言う夢を昔から私よく見るんですよホントあれ嫌になるわ。
野沢鬼だぁ!!!!
矢野様の書かれる野沢鬼だぁ!!!
コワッ。ご自分の夢がモチーフですか!!
……ひゃあ。鬼太郎さん助けてww
最後に素敵2期さん拝めました。有難うございました。野沢鬼はやっぱこうじゃなきゃなぁ。
真っ先に反応くださったのに本当にすみませんっ……私も最後の最後に初!野沢ssが書けて大満足ですvv
小さい頃からよく見る夢なんですが……ははは、お祭りに使えて本当に良かった! こちらこそこんなモノでも読んでくださって本当に有り難うございますっ! 大和様の2期も大変好評でしたよっvv