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夢捨て場
日常報告及びネタ暴露専用のブログです
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2010/10/25 (Mon) 14:21

説火様

 今年MH祭デビュー。今回は緻密な背景描写と、
深い設定のオリジナル小説を提供してくださった。
本作含め、MH祭の為に三作品も執筆してくださり、
どれも面白い視点でテーマを掴んだ作品となって
いる。
 

飛脚


~藍鼠(あいねず)~

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暗い暗い部屋の中、囲炉裏にくべられた炎の灯りだけが見える。
クツクツと音を立てるのはその炎に炙られる鍋。
中身はトロリとした藍色の液体と浮き沈みする木の実の様なもの。
その暗い部屋に光が射し込む。
縦に細長い光はやがて部屋全体を照らす。ーー人陰の部分を除いて。
人陰は青みがかった淡黒色ーー俗に言う鼠色の髪を腰まで伸ばした老女だった。
腰の曲がった老女はケヒケヒと不気味な笑い声を立てて、その髪よりも銀色掛かった衣から、木の実の似た何かを取出し鍋へと放り込んだ。
「これで108、これで最後。
ようやく満願成就の時が来た!!」
老女は感極まったとばかりに声を上げると、木じゃくしを使って鍋の中身を掻き混ぜる。
「108の欲に塗れた魂よ、負に堕ちた魂よ、
さぁ、ワシの糧となるがよい!」
老女のおたけびに応じてか、鍋の中身が凝縮し1つの藍色の固まりになる。
ちょうど爪程の大きさのソレを歓喜に震える指で摘むと、老女は躊躇いなく呑み込む。
ゴクリとソレを嚥下すれば、変化はすぐに訪れた。
ゴキゴキと音を立てて、老女の肉が、骨が動く。
相当の苦痛を伴うのだろう、老女は苦しげな唸り声を上ゲ、全身から冷汗を流す。
…しかし、その苦痛も長くは続かない。
鼠色をした髪は藍色に染まり、艶々とした潤いを取り戻す。その衣も同じ様に藍色に染まり、曲がっていた腰も伸びる。
そこにいたのは最早老女ではなく、妖艶さを感じさせる美女だった。
ーーフフフッ。
元、老女だった女は薄く笑う。
「ああ…永かった!
ようやく、ようやく…この姿に戻れたっっ!!」
女は自らを愛しむ様に両の腕で己を抱く。
女が作っていたのは若返りの薬だった。
108の魂を己が身に取り込んで、若い頃の姿と能(チカラ)を取り戻す。
…この姿なら、今までよりも容易く狩りが出来る。
若返ったばかりで腹が減っている。
さっそく狩りに行くかと、部屋を出ようとした処で腹に強烈な衝撃を食らう。

ーーグボッ!

腹に納めたばかりで、まだその身に馴染んでいなかった魂を幾つか吐き出してしまう。
髪も衣も少し色が薄まる。ごく少量の白を混ぜた様なーー藍鼠へと、三度色を変えた。
再び部屋へと戻された女は少し色の落ちた自分を見て、絶叫を上げる。色が落ちたという事は、せっかく取り戻した能も落ちたという事だ。
「誰だっ!!」
憎しみをその声に籠めて誰何(スイカ)する。
光の一部を遮る陰は己のものより小柄で…目を細めて見れば、そこにいるのは少女の姿をした者だ。
丈の短い水色の浴衣に似た衣を纏った少女は、その夜色の瞳に侮蔑を籠めて女を見ていた。
まるで…この世で最も醜い者を見るかの様に女を見ていた。
女の内に怒りが生まれる。数分前ならいざ知らず、若い自分をその様な瞳で見る事など許されない!
少女は足下まで伸びた夜色の髪と、左横に飾った蝶に連なる、やはり足下まである5連の桃色の珠を揺らし、部屋に入ってくる。
コツリと音を立てるのは膝上まである青いブーツ。
可笑しな格好なのに、その装束はより、少女の婉しさを彩る。
少女の婉しさに思わず見惚れていた女は自身に嫌悪した。
この世で1番婉しいのは自分だ。他の者など認めない!
この場に居るという事は、少女も人間ではないのだろう。しかも大した能も感じない。
先程の一撃も油断していたせいだと、己の勝利を疑わない女は、艶然と、微笑んでやった。
人間よりは良い糧となるだろう。この少女を取り込んで、己はより強く、婉しくなるのだ。

女の武器はその爪だ。
その爪に宿る毒で獲物を屠り、その魂を喰らう。喰らった魂はそのまま女の能へと変換される。
女は少女に踊りかかる。
反応すら出来ないのか、それとも怖気づいたのか…その場から動かない少女の顔に傷を作る。
擦るだけでも死に至る猛毒を、少女は真面に受けた。今に崩おれ、命乞いをすると思った少女は未だ動かずそこに居る。
「なに…?」
信じられないとばかりに呟けば、少女は無造作に自身の顔を拭う。滲んだ血が拭き取られたその顔に、女が付けたはずの傷はない。
「…このっ。
…あつっっ!!」
何かの間違いだともう一度襲い掛かれば、今度は紅い焔(ホムラ)に阻まれた。そのうえで少女がいつの間にか手にしていた水色の刀で胸を切り付けられる。
裂かれた衣が舞う仲で、少女の腕が見えた。刀を握っている方の袖が無くなっている。
血は…出なかった。
けれど急速に能が失われていく。
その時ようやく、ーー本当にようなく、少女が何者なのか解る。
毒が効かず、焔を生みだし、水色の刀を繰(ク)る者ーー。

「同胞殺しの共喰い姫かっっ!!」

少女は肯定するかの様に、悠然と笑って魅せた。

「ワシも喰らうのか!?
薬の姫のように!焔の若のように!糸紡ぎの君のようにっっ!!」

悲鳴が、その口から零れる。
少女が今魅せた能は本来少女が持っていたものではなく、他者から奪って身に付けた能だ。
同胞の能を奪い続けて能を高めてきた妖(アヤカシ)の事は、様々な噂が飛び交っていたが、その姿を見たと言う者はいなかった。
“共喰い姫”との字(アザナ)が付けられたその妖は、たやすく妖の覇者となれる程の能を持っているという…。
それ程の能を持っていても、その妖は何の行動も起こさなかった。
やがてはそんな妖はいないと、ただの噂だと、そう囁かれていたのに!
何故よりにもよってここに、己の前に現れる!?

ーーヒッ。

少女が一歩踏み出す、恐ろしさで知らず後退った。
決して適わぬ相手に出会い、心底から恐怖がせりあがる。
「ワシが何をした?
妖の本能のままに行動して何が悪い!?」
「何も」
恐怖のままに絞りだした問に、共喰い姫は初めて応える。
何も。と。
その声は、酷く綺麗だった。
この場にそぐわぬ程、涙が出るほど美しかった。
「ただ、貴方が、不運だっただけ」
幼子を諭す様に、ゆっくりゆっくり紡がれた言葉は、とても納得出来るものではなかった。
「なに…を…」
「貴方が、集めた魂の中に、私が大切にしている魂があった」
ただそれだけ。
ただ、それだけだが、共喰い姫にとっては大事な事だった。
「あと、私は貴方を喰べない。ただ、滅するだけ」
水色の線が奔(ハシ)る。
其れが、藍鼠の女が最後に見た光景だった。
悲鳴をあげる余裕すらなく、女は塵となり、空中に溶けて消えた。
…それが妖の最後。
後には何も遺らない。
「貴方には、解らない」
刀を元の袖に戻して少女は呟く。
たかが2、3百年しか生きていない藍鼠の女になど。
千年、万年、億年…生き続ける苦しみなど。
…喰らった能は友人達のものだ。
屍すら遺せない自分達の死後、少しでも少女の寂しさが癒される様、孤独が紛れる様にと、自ら差し出してくれたのだ。
その能を得る事で、更に寿命が延び様と、友人達の想いを無下には出来ず、また自身もその孤独に耐えられるはずもない。

ポゥッと、藍鼠の女が死んだ事により、解放された魂達が天に昇って逝く。
そのうちの1つが少女の元へとやってきた。
その魂こそが、少女が大切にしていた魂。
遠い遠い昔に、少女の伴侶だった魂だ。
少女はそっと手を伸ばし、その魂に触れる。
もう、自分の伴侶だった時の記憶など、欠片も残っていないだろう魂を、そっと、他の魂の元へと、輪廻の輪の中へと戻す。
「早く、また生まれておいで」
優しく、けれど寂しげに少女は一時の別れを魂に告げる。
今ではもう、この魂の逝く末を見守る事だけが、少女の救いであり、生きる理由。
故に、それを邪魔するものは何者であろうと許さない…。

同胞殺しの共喰い姫は、魂達が全て天に昇ったのを見届けた後、静かにその場を去った。


                    END
 

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色の描写が…
矢野 2010/10/25(Mon)15:49:35 編集
やはりすばらしい! 説火様、MH祭初参加本当にご苦労さまでした! RDGの矢野です☆
「色鬼」もこの後の作品も好きでしたが、やはり『色』にぴったりなのはこちらの作品ですね! テーマ色に捕らわれず、しかししっかりテーマに沿った作品…! 感嘆せずにはいられません!
本当にすばらしい作品を有り難うございましたvv
説火様へ
大和 2010/10/25(Mon)21:28:43 編集
説火様のオリジナル、初めて見ました。
雰囲気があって素敵な作品ですね! 共喰い姫、の嘆きがじんと来ました。
矢野様へ
説火 2010/10/25(Mon)21:51:27 編集
こちらこそ、ありがとうございました^^
MH祭に参加でき、とても良い思い出になりました。
自分では思いつかないテーマの話を書けたことも、面白い経験でした。
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
大和様へ
説火 2010/10/25(Mon)22:00:57 編集
感想ありがとうございます。
この話は思い入れが強いので、とても嬉しいコメントでした。


悲しくも暖かい。
シロウ 2010/10/28(Thu)19:52:24 編集
そんな印象を持った作品でした。
説火さんの作品を拝見するのは、今回初めてなのですが、もっともっと創作読みたいです!!
今回、こうして素敵な作品に出会えて良かったです^^*
シロウ様へ
説火 2010/10/29(Fri)22:42:50 編集
感想ありがとうございました。
もっと読みたいと言ってもらえるなんて、とっても嬉しいです!
この話も私も幸せものです!!
説火様へ
珠歌 2010/10/30(Sat)07:31:07 編集
はじめまして!
恐ろしく、どこか悲しくて…そして優しさの見え隠れするお話だなぁって思いましたvひとつひとつの色の描写がとても、とっても綺麗で読み惚れてしまいましたv
ありがとうございましたvv
珠歌様へ
説火 2010/10/31(Sun)21:56:25 編集
はじめまして珠歌様。
コメントありがとうございます。少しでも楽しんで頂けたなら、とても嬉しいです。
こちらこそ、ありがとうございました。
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