珠歌様
今年MH祭デビュー。普段は優しく暖かな日常風景に
溢れる作品を執筆されるが、今回は一転して不思議で
仄暗い世界の作品を提供してくださった。特撮サイト
「イロドリパレット」の管理者様として現在も活躍中。
マリーゴールド
~柑子色(こうじいろ:マリーゴールド)~
ピカッとオレンジよりも濃い色のマリーゴールドが、いつも目に入るの。
どんな時でも、どんな場所でも必ずあたしの傍に咲いていた。
最初は、気になっていたけれど、次第に慣れていった。
だって・・・どこにでもある色だもの
ここは、何処だろう
気がついたら霧深い川辺に1人立っていた。
そもそも、なんで此処にいるのかもわからなければ、今までなにをしていたのかもわからない。
人の気配は、無い。
さらさらと水の流れる音があたしを挟んで聞こえるから、川の真ん中にいるんだな、と思った。でも、足が濡れてる感じがしないのを不思議に思って目を落とせば
あのいつも目に入る濃いオレンジのマリーゴールドが、咲いていた。
こんな霧の中でもはっきりと見えるピカッとしたマリーゴールドが、まるで・・あたしが川を渡るのを遮る様に、ここだけに。
何だか、ホッとしてしゃがんでその花をなでた時
「―――――――――――――――。」
霧の向こう。あたしの左側から声がした。
立ち上がり、よく目をこらせば・・手招きをしている影が見えた。
自然と、足は声に釣られるように左の川へと踏み出す瞬間。
「そっちじゃないよ」
ギュッとあたしの手を握る小さな手の感触に振り返る。
さっきまで、あたし1人だった筈なのに・・
足元に咲く者よりずっと鮮やかなマリーゴールドを、もう一方の手一杯抱えた小さな女の子が、あたしを見あげていた。
その顔は・・霧のせいで良く見えない
「――――――――――!!」
また左の方から声がする。今度は・・どこか怒っているような男の怒鳴り声
「ギュってもってて!ぜったいにはなしちゃだめ!!」
手渡されたのは、抱え持っていた中でも1番ピカピカしたマリーゴールド
「ギュって!!はなしちゃだめ!」
必死に訴える声に、重なる小さな手に思わず頷いた。
ばしゃん
それと同時に信じられない力であたしは、右の川に突き落とされた
「めじるし、だから」
女の子の声と
「ふざけるな!邪魔をする気か!!」
低く、悪意に満ちた怒鳴り声が聞こえた。
バシャバシャと水面が揺れて数えきれない手があたしを捕まえて、引き上げようとするけれど、その手が掴むのはあたしと一緒に沈むマリーゴールド。
あの子が落としているのだろう。握りしめたマリーゴールドを目印にして後から、後からマリーゴールドが降って来る。
ピカッとオレンジよりも濃いマリーゴールドが、あたしをあの手から守る様に周りで揺れて、掴みかかる手に引き上げられていく。
そして、また降って来る。その繰り返し。
やがて、手の届かなくなり、マリーゴールド一色の世界になった時
「もう少し、だったのに!!邪魔しやがって」
頭に悔しそうな声が・・・響いた。
次に目を開けた時、マリーゴールドの色はどこにもなくて代わりに白い天井と消毒の匂い。それと泣きはらしたお母さんの顔と怖い顔のお父さん
「あの川に近づくなとあれほど言っただろう!!!」
その大きな声に一気に思い出した
“川に落ちた”事を
近づくなと言われていた川で1人で遊んでて・・誰かに呼ばれた気がして振り返ったと同時に足が滑って・・・。
ガミガミと怒るお父さんの後ろにコップにささった緑の折れ曲がった茎が見えた。
何だろう胸がギュってなる。
「コップの・・」
ガミガミがやんだ隙を突いて指を指す。それを目で追ったお父さんの顔がクシャリと歪んだ。
「マリーゴールドだよ。お前が握り締めていたんだ」
大きく怖かった声は小さくなって震えてた。
「何もない岩場にまるで目印のようにマリーゴールドを握り締めていたんだよ」
泣きやんだ筈のお母さんの目にはまた涙が溜まってた。
「あなたが保護されると同時に花は落ちてしまったの。でもね・・あの川の周りにはマリーゴールドはどこにも咲いていないの」
ギュッとあたしの手を握り締める。
「奇跡としか言えないわ」
「あの川で無事に発見されることは殆どないそうだ。あの花がお前を助けてくれたんだ」
ギュッと抱きしめてくれたお父さんの肩ごしから、揺れる緑のマリーゴールドを見つめた。
何故だろう、さっきよりもずっと胸がギュってなった。
その夜あの子に会った。
両手一杯にピカッとオレンジよりも濃いマリーゴールドを抱えて笑ってた。
笑うその顔に見覚えが・・あった。
でも、あたしが口を開く前にあの子はそのままスッと消えてしまった。
思い出した。あの子の事
今よりも、もう少し小さい頃に遊んだことがある
その時も、あたしは1人で遊んでて、ちょっと淋しかったの
ふと振り返ったらじっとあたしのことを見つめるあの子が両手一杯のマリーゴールドを抱えて立っていた。
淋しそうな顔をして見てたから、あ、あたしと一緒だって思って嬉しくなった。
「一緒に、遊ばない?」
笑いかけたの
「・・・いいの?」
ちょっと驚いた顔をしたあの子
「うん!1人は淋しいもん。友だちになろう!」
ギュッとマリーゴールドと一緒にあの子の手を握ったんだ。
あたしと同じ小さな手は暖かかった。
どうして忘れていたんだろう。
いつの間にか寝てたらしい。
窓から太陽の光が差し込んでいた。そして、ピカッとオレンジよりも濃いマリーゴールドの色が目に入る。
いつもあたしの目に入る色。けれど、何処から・・?
きょろきょろ見渡して、気がついた。
緑のマリーゴールドは、一夜で花を咲かせてた事に。
それを見て、わかった。
ピカッとオレンジよりも濃い色が必ずあたしの目に入った訳を。
あの子が傍にいたんだ。両手一杯のマリーゴールドを抱えてずっと傍に。
あたしが忘れてしまっても、ずっと。
「ごめんね・・・」
ボロボロとこぼれる涙は止まらない
何処にでもある色だと、思ってた。そんな訳ないのに。
特に意味なんてないと、思ってた。そんな訳ないのに。
それはきっとあの子にも伝わってたはず、それなのにいつもこの色は傍にあった。見守る様にそっと傍に。
あたしはなんて薄情なんだろう。
それなのにあの子は助けてくれた。
ボロボロとこぼれる涙で滲むマリーゴールド。
ふわり
風もないのに、マリーゴールドが揺れた。
その横で、両手一杯のマリーゴールドを抱えて笑うあの子が見えた
『友だちだもん』
ピカッとオレンジよりも濃いあの子の色は・・どんな時も色あせない。
「もう忘れないから」
マリーゴールドの色はあたしの優しい友達の色で・・・どんな時もあたしの傍にある特別な色だと言う事を
Fin.
柑子色でどんなお話が出来るのだろうってとても興味がありました。「ピカッとオレンジよりも濃いマリーゴールド」の語感がとても深く入ってきまして、女の子や主人公の姿が優しく切なく、胸に来ました。
死者に引っ張られなくて、良かったねって、言いたくなるお話でした。有難うございます。
やっぱり一つ一つ用いた道具を最大限に活用するって、大切だけどすごく難しい事だと思いますっ。迫る恐怖、しかしどこかもの悲しい、そんなストーリーを本当に有り難うございました!
コメントありがとうございますvv
凄く悩んだので…大和様の温かいお言葉がとても嬉しいですv
「ピカッと~」のくだりはどうにか色の印象を残せないかなという作戦でもあったので、本当に嬉しいですv
自分からはきっと選ばないだろう色でのホラーチャレンジ、凄くいい経験させて頂きましたvたくさんのお誉めの言葉、ありがとうございます。
楽しいお祭りに参加できてとても嬉しいです。
重ねてお礼申し上げますvv