今年MH祭デビュー。特撮サイト「銀色宇宙」の
管理人様として現在活躍中。今回もまた壮大な世
界観でウルト/ラマン小説を提供してくださった。細
やかなキャラクター設定が魅力である。
緑紫の幻
(りょくしのまぼろし)
~菖蒲(しょうぶ)~
その惑星は、名を《アイリス》と言った。
《アイリス》の星には、何時の頃からか花が咲くようになったという。
艶やかな紫の花弁に、切っ先のように鋭い、深い緑の葉を持つその花は、瞬く間に星を覆い尽くし、匂やかに咲き誇るようになったという。
「救難信号が出ていたのは……本当にここですか?」
「技術局が何度も確認したけど、発生源はここで間違いないそうだ」
マンとティガが降り立った大地には、艶やかな紫が、自身の存在を主張するように一面に咲き誇っていた。
この星のどこかから発せられた宇宙船からの救難信号を受信した宇宙警備隊は、マンとティガを派遣したのである。
見渡す限り、地平線までも咲き誇る花、花、花。
地球に生息する花菖蒲によく似た花は、吹き渡る風にさわさわと揺れながら、二人の足を撫でた。
「この星って……住民がいるんじゃありませんでしたっけ」
「そのはず……なんだけどな」
《アイリス》には、高度な文明を持つ知的生命体が住んでいる。
けして戦闘に秀でているわけではないが穏やかで、光の国とも何度か交流を持ったことがあった。
「私も会ったことがあるけど、みんな穏やかでいい人達でね。遭難船なら助けてくれると思う」
「……では、救難信号を出す必要はないのでは?」
この星の住民に助けてもらっていれば、その必要は全くないはずだ。
「……その、はずなんだけどな」
救難信号は一定の間隔で発せられて止むことが無く、発見されていないのか、それとも別の事情があるのか、それを調べるためにマン達が派遣されたのである。
少なくとも《アイリス》の住民は話が通じるはずで、まずは彼らに協力を依頼するべく、二人は居住区へと向かった。
《アイリス》の居住区は、美しい白亜の建物が規則正しく建ち並ぶ街である。
車が走る道路はない。《アイリス》の住民は大地との繋がりを重要視する世界観を持っており、大地から足が離れる乗り物を嫌うからだ。
出来る限り地に足を付けて移動する。遠方の街に行くなど、どうしても徒歩だけでは難がある場合にのみ、馬によく似た生物に騎乗して移動するのが彼らのやり方だという。
「……会いませんね。住民の人達と」
「……ああ。おかしいな」
マンは目に着いた看板に歩み寄った。
大地を覆う紫の花が、茎を蔓状に変化させて絡みついている。それを払いのけると、『図書館』という文字が目に入った。
「図書館か……。何か情報が入るかも知れないな」
「入ってみますか」
その足で、二人は図書館に踏みいる。
驚いたことに、建物の内部にも、外で咲き乱れる花が蔓延っていた。床一面を覆い尽くす紫と緑に絶句する。
「これは……」
ティガは顔をしかめて言った。
「おかしいですよ。さっきの看板といい、この状態といい……」
大地との繋がりを重要視するのなら、外に花が咲き乱れるのを放置するのはまだわかる。手を加えることさえ罪だという価値観を持っていると仮定すれば、まだ納得できた。
だが、建造物の内部にまで植物が蔓延るのを放置するのはいくらなんでもおかしい。
それすら許容するという価値観があるのかも知れないとしても、ここまで咲き乱れるままに放置するということがあるのだろうか。
ましてや、保管する資料を守る使命を持つ図書館内部で。
紫の花は、資料の棚にまで蔓を伸ばし絡みついているのだ。
「…………ああ、いくらなんでもおかしい」
眉根を寄せて周囲を見回したマンは、入口の方を見て目を見開いた。
女が立っている。
茶を幾重にも塗り重ねたような、濡れるように艶めく髪と、抜けるように白い肌の女が、入口のすぐ横にある大きな窓からこちらを見つめているのだ。
「ティガ。ここで何かわかることがないか調べてくれないか」
「……了解しました。彼女に話を?」
ティガもまた、女を見つけて頷く。
ようやっと見つけた住民である。この星で何が起きているのか、何故住民達が姿を隠しているのか、聞けるかも知れない。
「ああ。行ってくる」
「お気を付けて」
短く言葉を交わして、二人はわかれた。
出て行くマンを見送って、ティガはカウンターの中にあるコンピューターに手を伸ばした。
起動させると、透明な電子の画面が彼の眼前に浮かび上がる。
「資料目録……最新資料」
浮かび上がる項目に触れると、最新資料の目録が一覧で表示される。
それに目を通していると、一つ気になる項目があった。
「『《アイリス》を救う為に』……?」
タイトルに触れると、資料の目次と、前半部分らしき文章が画面に表示された。
この資料が作成されたのは宇宙歴XXXXX年。今から数百年は前の資料になる。
「……数百年前の資料が、最新だって?」
おかしいと思いつつも、資料を読んでいく。
「……『我らが母なる星、《アイリス》に危機的状況が迫っている』」
どんなわずかな情報も見逃すまいと、ティガは目をこらした。
――我らが母なる星、《アイリス》に危機的状況が迫っている。
大地の内部を巡るマグマの動きが、このところ目に見えて鈍くなっている。
調査の結果、《アイリス》の核が死を間近にしているということだ。
この状況が意味するもの。それは、《アイリス》の大地の死である。
核の死が間近とはいえ、それまでにはまだ何千と時がかかるであろう。
しかし、このまま時が過ぎ去り、マグマが動きを止め、やがて冷え切ってしまえば、大地は冷え切り、動植物の生態系に多大な影響を及ぼすであろう。
最悪、《アイリス》の大地の上に生きる全ての命が脅かされることも考え得る。
これを防ぐ為、我が星の優秀な頭脳達が何度も議論を交わしたが有効な対策はついに見つけられなかった。
故に、我らは《アイリス》を出る。
この星の外にあるかも知れない、《アイリス》を救う手立てを見つける為に。
我らの子孫に、母なる《アイリス》を共に生きていってほしいが為に。
「……そうか……この星は死にかけている……のか」
『《アイリス》を出る』という記述を信頼すれば、住民の全てが、《アイリス》を救う為に宇宙船か何かでこの星を後にしたとも考えられる。
「でも……待てよ」
考えを巡らせる。
仮にそうだとして、他の生命はどうしたのか。
鳥はおろか小動物さえも、ここに至るまで出会うことはなかった。
資料の記述からは、住民以外の《アイリス》の生物を連れて星を出るという内容は読み取れない。
そもそも、惑星中の生物を宇宙船に乗せる意味がない。
《アイリス》を救う為に星を出るのだから、その術を見つけられる者でなければ宇宙船に乗る意味がないのだ。
「……他に……何か情報は……?」
最新資料の目録に画面を戻す。
めぼしい資料を求めて目を滑らせていたティガは、ある資料のタイトルに目を留めた。
「『近年発見された新種の《花》について』」
タイトルに触れ、内容を映し出す。
近年発見された新種の《花》。
艶やかな紫の花弁、剣先のように鋭い、深い緑の葉を持つこの《花》は、驚くべき生命力と繁殖力で大地を浸食している。
この《花》が発見されたのは我が星の歴史においてYYYY年。宇宙歴にしてXXXXX年である。
「……丁度、さっきの資料が作成された時期に発見されたのか……」
偶然だろうか。妙な繋がりである。
続きを読もうとしたティガは、妙な感触に足下を眺め、目を見開いた。
花の蔓が、足首に絡まっている。
踏み分けて歩いていたときには、このように蔓が絡むような進み方はしていなかったはずだ。
反射的に蔓を引き千切ってデスクの上に跳び上がると、目を疑うような光景がティガの眼前で展開された。
ティガが引き千切った蔓の残りの部分が、まるでティガを追うように、デスクの上に這い上がってきたのである。他の蔓も一緒に、無数に。
ざわざわ
ざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
うごめく蔓と蔓が擦れ合い、なんともいえず不快な音を紡いでいる。
入口を見ると、そこもまた、太く長い蔓にいつの間にか覆われて、塞がれていた。
背筋が冷たくなるのを感じたティガは、デスクから飛び降りた。二階に上がる階段を見つけてそこへ走る。
彼が踏み分けた跡から、次から次へと蔓が伸びてくる。
階段を駆け上ったティガは、またしても紫の咲き乱れる光景に息を呑む。
とにかく外に出ようと、一室の扉を開けた。そこの窓から脱出しようと考えたのだ。
が、扉を開けた瞬間、ティガは再び息を呑んで凍り付いた。
太い蔓に絡みつかれた、無数の人型の屍が、そこにあった。
会議室だったのだろうか。部屋は比較的広く、大人数を収容できるスペースがある。ここに、図書館にいた住民達が集まって、あの奇妙な花の襲撃から避難していたのであろう。
身を寄せ合うようにして、部屋の中央で彼らは骨になっていた。
骨と化しても蔓が容赦なく絡みつき、さらに紫の花が咲き乱れる様は幻想的でもあり、この上なく不気味だった。
眼球の代わりに咲く花が、ティガをじっと見つめている。
ざわざわざわざわざわざわ
蔓の迫る音を聞き、はっと我に返る。
骨達から無理矢理視線を引き剥がし、ティガは窓に向かって構えた。
L字型に組んだ腕から発射された眩く輝くゼペリオン光線が、やはり蔓と花に覆われていた窓を突き破り、退路を作る。
窓を塞ごうと伸びてくる蔓に邪魔される前に外に飛び出したティガはそのまま滞空し、肩で息をしながら、大地を覆う紫の花を見つめた。
よく見ると、やはり大地を覆うそれも、何かの生き物のように蠢いている。
確かに美しいが、しかし異常な光景に、ティガははっとして呟いた。
「――マン、さん……!」
女を追っていったマン。
この状況で、何も起きないとは考えにくい。先程目にした骸といい、あの女はこちらに助けを求めるでもなく、ただこちらを見つめているだけだった。
戦慄を覚えたティガは、全速力で飛び始めた。
「待て……待ってくれ!」
咲き乱れる紫を踏み散らしてしまうのを申し訳なく思いながらも、マンは走った。
するすると、滑るように女は行ってしまう。
必死で追いかけてやっと追いついたときには、街を出て少し離れた、小高い丘の上に二人はいた。
「あなたは、この星の民なのか? この状況は何なのか、知っていたら教えてくれ!」
問いかけるマンに、女はくすくすと笑いながら歩み寄る。
すぐ眼前まで女が来た時、マンはようやく気付いた。音がない。
いつの間にか、周囲から音が消えていた。
女が花を踏み分ける音も、風の音すらも。凍り付くような静寂が、場を満たしていた。
キン、と耳鳴りがする程。
思わず息を呑んだマンの頬に、女の手が触れる。その手はなめらかな大理石のような感触だったが、酷く冷たかった。
「あなたは……ッ」
『逃がさない』
思わず身を引いたマンの肩を、女の両手がつかむ。
『逃がさないわ。暖かな光を持つ人』
白い肌に異様な程映える紅い唇が笑みを作る。
ざわざわ
周囲の花が蠢いた。伸び上がった幾本もの蔓がマンの両手、両足、首、胴と絡みつき、自由を奪う。
「――ッ」
力尽くで仰向けに引き倒されたマンの上にのし掛かり、女はそっと囁いた。
『ずぅっと一緒にいましょう?』
蠢く蔓が幾重にも重なり、網のようにマンの身体を覆っていく。
死にものぐるいで動かした腕を、空に向かって突き上げる。放たれた光のエネルギーが中空にメッセージを描くのを見届けたマンの意識は、休息に緑の闇に覆われていった。
空に描かれたメッセージを見つけ、ティガは蒼白になった。
『逃げろ。この星は危険だ』
空中にいるティガを捕らえようと伸びてくる蔓の群れを躱し、時には光線で焼き尽くし、苦々しく表情を歪める。
「そういうわけにも……いきませんよ!」
額のクリスタルに手をかざし、スカイタイプにチェンジする。さらなる攻撃を躱し、サインの浮かぶ地点へと急行した。
「マンさん……ッ! どこですか!?」
叫べど、応えは返らない。
周囲を見回すティガの足に太い蔓が絡みつき、引きずり下ろそうと試みる。それを手刀で切り飛ばし、周囲の蔓を焼き払おうと構えた瞬間、気付いた。
蔓延る緑の隙間からわずかに覗く、その手に。
空に伸ばした形で固まっている腕、手。それをも覆い尽くさんと絡みつく蔓の群れ。
脳裏をよぎる最悪の想像を無理矢理封じ込め、ティガは急降下した。
「マンさん!」
花を踏み散らし、腕に絡みつく蔦を引き千切る。腕を起点に周囲の花蔓を引き千切り、払いのけていくと、求めていた人の顔があった。彼の首に絡みつく蔓を引き千切ると、予想通り圧迫されていたのだろう。急に確保された気道に、マンが咳き込んだ。
「ぐ……っ、がはっ! はっ……!」
「しっかりしてください! 飛びますよ!」
パワータイプにチェンジしたティガは、マンの胴に絡みつく蔓を引き千切り、マンを抱えて空中に飛んだ。
追いかけてくる蔓を避けながら徐々に上空へと高度を上げていくと、キン、と耳鳴りがする。
『逃がさない』
「――――!?」
『逃がさないわ』
突如響いた女の声に驚いて動きを止めると、すかさず蔓が襲ってくる。
デラシウム光流で焼き尽くすが、次々と他の蔓が伸びてくるので意味がない。
「ティガ……!」
「気がつきましたか?」
抱えていたマンが、ようやくはっきりと意識を取り戻したのに安堵してティガは息をついた。
頷いて見せたマンは自力で滞空し、言った。
「あの植物は……どう見ても敵だな」
「ええ。……それに、この星を滅ぼした原因のようですしね」
どういうことだと問いかける視線に、ティガは図書館で閲覧した資料の内容、図書館の二階で目撃した白骨死体のことを、蔓を避けながら話した。
「この星の住民は、突然発生したこの植物に覆い尽くされたんです。逃げるまもなく」
「そんな……。じゃあ、救難信号の主は……」
よぎる最悪の事態に表情を険しくしたマンは、ティガに向き直ると指示を飛ばした。
「とにかく、この星を廻ってみよう。今度は地上に降りずに」
「了解しました」
頷き合って、二人はそれぞれ別方向に飛んだ。
ティガは予想以上に酷い光景に舌打ちする。
飛行する間、飛び込んでくるのはあの植物に覆われた大地ばかりだった。どこまで飛んだ時だろうか、地面にぽつんと佇む緑色の塊を、ティガは見つけた。
降下して塊の天辺に降り立ち、威力を制限した光線を放って植物を焼き尽くす。
見えてきた塊の正体は、ティガの予想した通り宇宙船だった。入口らしき場所の金属板を突き破って進入している極太の蔓に、我知らず重い溜息をつく。
表面を覆い尽くす花蔓を除去しながら、内部の様子をうかがえる場所を探す。やがてコックピットの大窓を見つけて中を窺ったティガは、薄暗い内部で花蔓に覆われている人型の物体を見つけ、ますます重い溜息をついた。コックピットの中で蠢く蔓を見、あれが救難信号を発しているらしいと見当を付ける。
その間自分に絡みついていた蔓を引き千切って飛び上がり、合流するためのウルトラサインを出した。
蠢く花蔓に嫌悪の視線を投げながら、苛立ちの混じりに呟く。
「一体……なんなんだ。こいつら」
『逃がさないわ』
「……っ、またか!」
キン、とした耳鳴りと共に訪れる静寂。
蔓の蠢く音、風の音、全てが無に帰し、女の声だけが明確にティガの耳に響く。
『逃がさないわ。みんな、私と一緒にいるの。他の星になんて行かせない。私の上に生まれた者たち、私の上に降り立った者たち。私と一緒にいるのよ、永遠に。私こそがお前たちの母なのだから。私と私と私と私と私と私と私と私と私とわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとワタシトワタシトワタシトワタシトワタシトワタシトワタシトワタシト』
「――――ッ!!」
狂ったように謳う声に、ティガは総毛だった。
否、この声の主はとっくに狂っている。
この星の上に生きる命だけでは飽きたらず、この星に降り立つ者さえも、永遠に己と共に在れと謳い続けている。
反射的に耳を押さえるが、狂った声は止まらない。
「……この星は、死にかけている」
必死に情報を整理していたティガの思考は、突然一つの情報を弾き出した。
――《アイリス》の核が死を間近にしているということだ。
図書館にあった資料の一文である。
核の死が迫った星。死にかけている星。
「《アイリス》の民は……核の死による滅びを避ける方法を見つけられなかった……」
――故に、我らは《アイリス》を出る。
「星が……民が出て行くのを許さなかった……?」
死を間近にした《アイリス》が、己の生み出した民が離れていくことを許さなかったとでもいうのだろうか。
自分を救うためだとも知らず、ただ去っていくことだけを感じ取り、彼らが離れていかないように縛り上げたというのだろうか。
民を全滅させてまで。
「…………なんて……馬鹿なことを……」
呆然と呟くティガの足に、花蔓が絡みつく。
「っ!」
凄まじい力で地面に引きずり下ろそうとする花蔓を、青白い光線が焼き払った。
「マンさん……!」
「油断するな、ティガ」
険しい表情で言ったマンは、蒼白になったティガにまっすぐに向き直った。
「何があった?」
「離れましょう、この星を」
「ティガ?」
「早く!」
首をかしげていたマンだったが、ただならぬティガの様子に頷き、二人は大気圏外まで飛び上がった。さすがにここまで来ると、あの花蔓も追ってはこない。
「何が……あったんだ?」
「救難信号の主を見つけました。とっくにあの植物に襲われていて、乗組員は全滅。内部に侵入した植物が、救難信号を出しているようでした」
一呼吸置いて、ティガは言葉を紡いだ。
「あの植物は……星の意思なんです」
「星の……意思?」
「図書館で見つけた資料に、あの星……《アイリス》が死にかけていることが書いてありました。星の核の活動が停止しかかっていたんです。《アイリス》の民は、星が死ぬことによる災厄を回避するための方法を見つけるために、星を出ようとしていました。僕の推測に過ぎませんが……《アイリス》は……それを許さなかったんです」
自分が生み出した生命たちが離れていくことが許せず、永遠に共に在れと彼らを縛り上げた。
彼らが何故離れようとしたのか、その理由も理解せずに。
「声がしました。『逃がさない』と。『他の星になんか行かせない』と。『私の上に生まれた者たち』『永遠に一緒にいるの』と。だから……多分」
自分が死にかけていることをわかっていたのか、それによる孤独から逃れられなかったのか。
《アイリス》は狂った。
己が生み出した生命を永遠に自身に縛り付けることで孤独から逃れようとしたのかも知れない。
「どう……報告すればいいんでしょうか。星が……狂ったなんて」
半ば呆然としながら話すティガの肩を、マンは優しく叩いた。
「見たまま聞いたままを……話すしかない。他の惑星の宇宙船が《アイリス》に立ち入らないようにしないと……な」
地球に似た、青く輝く惑星を二人は見下ろした。
狂った《星》。孤独に耐えられなかった《星》。
「……星も、孤独を覚えるんでしょうか……」
ティガはぽつりと呟いた。
宇宙の闇に輝く星々もまた、一つの生命として捉える考え方がある。物質の塊ではなく、膨大な命の一つとして。
それを考えれば、星が孤独を覚えることも、狂うことも、不思議ではないのかも知れない。
「………………行こう」
促すマンに頷いて、ティガは《アイリス》に背を向けた。
青い星の表面が、ざわりと蠢いたようだった。
Fin.
今回ウル虎はMH祭初!の作品でして(私も挑戦した事無いんです笑)本当に楽しみ+頂いた時は大興奮させて頂きました! しかも初代組だし! ティガとマンだしっっ!笑
惑星そのものを狂わせるという、ウル虎ならではの壮大な世界観…! 初代組のやりとりは勿論、すごい発想に心から感心させて頂きました!
素敵な作品を本当に有り難うございますvv