2009/08/02 (Sun) 17:50
MH祭~夢草紙~ 第6幕!
さあ、どんどん盛り上がって参りましたぜMH祭っっ!
今回は祭初出場! 倉元しんご様が作品を提供してくださいましたvv
三期鬼太郎、猫娘視点の鬼猫風味……!(すみません上手くまとめられませんでしたっっ!爆;;)
どこからどこまでが夢なのか……
これもただの幻想か……
猫娘の切ない思いも描かれたナイトメア! 「つづきは~」からどうぞご覧あれ!
[甘美なる夢を、貴方に]
―――暗い。
ここは、何処だろう。
不意に目の前に現れたのはどろりとしたナニか。ソレはちょっとした塊だったのに少しずつ形を成していき、まるで人間の様な形になっていく。目の前で行われている理解し難い光景は何故か恐怖も何も感じず、只ソレの最終形態を見届けようと思った。段々と形が整っていくソレが少年だと解る。茶髪で長く、少年特有の四肢を纏う布も無い。顔は長い前髪で確認出来なかったが、口元が特徴的で、そこを見て、無意識にソレの呼び名を口にした。
「きた、ろ、う?」
「………、……」
口は動いてないが、声を耳の奥に直接送られている様で気持ちが悪い。声はどんどん脳内を支配していき、外からどんどん腐っていっている様な感覚に陥る。自分が鬼太郎と呼んでしまったソレは手を伸ばそうとしてきて、その瞬間、先程迄抱いていなかった恐怖が一気に押し寄せてきた。止めろ、と云おうとしても口の筋肉だけが上下し、声帯が切り取られた様に声が出ない。
「こ、ないで…っ」
「…、……」
「あんたは…、」
振り絞った声は自分でも驚く位か細くて、脆弱な人間と変わらないじゃないか、と腐り掛けていると感じている頭の隅で思う。
恐い、のか。あたしは、コレを畏怖しているのか。
最早生物として認識されないソレに向かって、叫んだ。
「あんたは、鬼太郎じゃない」
ソレが、笑った。
「――――――っ!!!」
目を開いた瞬間に見えたのは自分の部屋の古ぼけた天井だった。飾り気も無い黒い前髪は汗で額に張り付き、寝間着も同様に気持ち悪い汗で身体に張り付いてる。荒い息を整える為に肺一杯に空気を吸うと少しだが、落ち着きを取り戻せた。
あれは、何だったんだ。
冷えた脳で考える事はそれしかない。夢である事は間違いないが、その内容が余りにも気に入らない。悪夢等は慣れている方かも知れないが、今回は少々鬱陶しいとさえ感じる。
(下らない、)
上半身だけを起こし、まだ暗い外の世界を見た。月が見えない事に些か驚いたがそう云えば今夜は新月だったか、とどうでも善い考えが浮かぶ。
何故あんな夢を見たのか、解らない。鬼太郎と出会って随分、それこそ人間が何度も転生する程の時間を過ごしてきたが、あんな夢を見た事が無かった。どれだけ毒や怪我に唸されようと、あんな、鬼太郎の夢等見た事無かったのに。
「何だって云うの」
奥歯をぎりりと鳴らし、嫌悪の声を漏らすが、それが何になるのだと今度は自分に対しての嫌悪が声に混じる。
夢なのだから、気にする事もない。見なかった事にして忘れてしまえば済む話なのに。
まだ、何処か身体の奥で燻っているこの黒々とした物がそうさせてくれない。まるで重くのしかかる岩石の様な。
(ねぇ、助けてって叫べば、来てくれるの?)
「………」
馬鹿げている、と小さく呟いたその声が、冷たい何かに掬われた様な気がした。
気が付けばもうすぐ夜が明ける時間で、今から寝直すのには遅すぎる。取り敢えず起きておく事にして布団を素早く畳んだ時、ピクリと身体が反応した。
(まさか、ね)
そうは思っても間違いなく感じるのは強い妖気。
「何シカトしてんだよ」
窓から聴こえてそちらを見れば、夜明けには似付かわしくない鬼の姿が、そこに。にやりと笑う鬼に、先程見た夢で感じた恐怖か若しくはそれに似た感情を抱いたが、逃げようなんて思考はなかった。この鬼を相手に逃げる等、無駄以外の何物でもない。出来るだけ平気な振りをして、鬼の名前を呼んだ。
「鬼太郎」
「何だよ、その顔」
くつくつと笑いながら我が物顔で不法侵入する鬼太郎に呆れながらも、台所に往きお茶の用意をする。鬼太郎は壁に立て掛けてあった机を部屋の真ん中に出して座る。そこに湯呑みを二つと茶瓶を置き、正座した。
何しに来たのかと尋ねようと思ったが、疲れて答えを聴くのも面倒臭くなって結局無言。その沈黙の間、二つの湯呑みに少しずつお茶を交互に注ぐ。注がれた湯呑みを颯爽と自分の口に持っていって、中身のお茶を喉の奥に流し込んでいった。その向かいでしんみりとお茶を啜るが何と無く味を感じなくて二口程で飲むのを止める。
「……で?」
「ん?」
「いや、どうしたの?こんな時間に。しかも窓から」
その言葉に鬼太郎は怪訝そうに首を傾げた。次の言葉に耳を疑った。
「お前が俺を呼んだんだろ?」
だから来てやったんだよ、と恩着せがましい云い方が癪に触ったが、それよりも呼んだ覚えもないのに何を云っているんだという思いの方が強かった。例え呼んだとしても聴こえる訳がない。だが鬼太郎が只の空耳を本気にしてここまで来るとも思えない。まず、自分の為にこの部屋に来る事さえ疑わしいのに。
「別に呼んでないけど」
「呼んだよ」
「いや、だから」
「泣きながら、呼んだじゃねぇか」
咄嗟に喉を詰まらせてしまった。
嗚呼、もしかして。夢で、呼んだのか。
あの一瞬、縋ったのは確かに目の前に居る隻眼だったかも知れない。本物の、鬼太郎を。縋る事すら恐れていたのに、そんな恐怖も厭わず心が求めたのはこの鬼だったかも知れない。それを、目の前の鬼は、感じ取ったのだろうか。
鬼太郎の腕が伸びてきて、一瞬たじろぐ。節繰れ立った指が白く細い手を取り、自分の口元へ持っていき、それに口付けた。それはまるで騎士が戦場へ往く時に愛するプリンセスに誓う様な、儚い口付け。
「恐怖なら、俺が貰ってやる」
嗚呼、そうか。自分は今夢を見ているんだ。そう思っても鼓動はどんどん高鳴る、これは、夢なのか現実なのか。もし、鬼太郎が騎士だとしても、プリンセスは自分じゃないだろうに、とやっぱり自虐的な思考が浮かんだ。だから、これは、夢。
儀式にも似たそれはとっくに終わっていて、鬼太郎は何時の間にか窓の所に立っていた。その笑みは悪戯に成功した子供そのもので。東の空は薄らと白んでいた。夜の終わりと同時に、鬼太郎は去っていく。何か云われた気がしたが、急に眠気が襲ってきてそのまま意識が途切れた。
目を覚ましたのはもう太陽が高く登った昼前だった。机の上に顔を伏せて寝ていたから寝違えたらしい。湯呑みは一つしかなかった。
「何なの、一体」
はぁ、と大きく溜息を吐き、古ぼけた天井を見上げる。何だか夢に翻弄されたな、と自嘲した。この夏は善い夢を見ないんだろうか、まぁそれもそれで善いだろう。最近の自分は少々平和呆気しすぎたかも知れない。そう思って、窓を見れば開けた覚えがないのに開いていた。
「……仕方ないなぁ」
よっこいしょと腰を持ち上げ、昨日作っておいたマタタビ餅を持った。今の時間なら起きてるだろうと玄関で何時もの赤いパンプスを履く。
さて、鬼に遇いに往くとしよう。
あたしの恐怖を喰ってくれる鬼に。
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戸田君ちょっとO TO KO MA Eっっっっっ!!!!!!(°∀°)b☆★☆
一体どこから現実なのか!?
いや夢オチでも全然OKだけど何はともあれこの男らしさを是非うちの戸田にも分けてやりたいと強く感じます!
それにしても果たしてあれは一体なんだったのか……恐怖は案外、すぐ側にいるのかも知れませんね……
なにはともあれしんご様、素敵な作品を有り難うございました!!
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