忍者ブログ
夢捨て場
日常報告及びネタ暴露専用のブログです
Admin / Write
2024/05/12 (Sun) 23:28
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2010/11/04 (Thu) 18:01

八神 帝様

 今年MH祭デビュー。詩的な表現から始まる、
幻想的なホラー作品を、鬼太郎を使って仕上げ
てくださった。徐々に全貌が明らかになるストー
リー展開に臨場感がある。

の鏡


~天色(あまいろ)~

拍手


 


おちるおちるおちる
のぼるのぼるのぼる
とけるとけるとける
ぼくの体が溶けていく
感覚が無くなる

 

上下がわからない
ぼくはどうしたんだろう

まわりがぜんぶあおいいろ
なんだここは
そらか?みずか?

空に溶ける?水に溶ける?
そんな馬鹿な。


そうかこれは 幻 だ


そこまで考えが及び、ようやく僕の意識は覚醒した。
しかしここはどこだ。
僕は記憶を手繰りだす。
そうだ確か鼠男がまた厄介事を持ち込んだんだ。
都市伝説にかこつけて、居もしない「妖怪」を退治するだの何だの。おかげで僕のところにまで手紙が来た。
そうだ、居もしない人間の子供の作り話。
数年置きにこの手の「伝説」は作られる。
だから今回の件も該当する妖怪はいなかった。
その旨依頼人の小学校の校長と子供に説明して、祓い屋気取りで金銭を巻き上げようとしていた鼠男をねこ娘が制裁していつもどおり、みんなで森に帰ろうと…
そこで僕の記憶は途切れていた。

帰りに何かあった?
いや、既に僕らは「道」に入っていた。僕らの使う道はヒトは入ることは出来ない。多少雑多なものも入るが、僕たち妖怪にとっては些細なことで何の影響も無いはずだ。
では森に帰ってから?
いや、それもありえない。森は護られている。
そしてここには僕しかいない。
みんなはいない、妖気も感じない。
ということは「ここ」に呼ばれたのは僕一人。
まぁ、こんなことは何度もあったし、仲間に害が及ばないなら構わない。
さて、この「場」を作っているやつをしめあげ…じゃなく、説得して早く帰ろう。父さんに心配をかけるわけにいかない。

「さて、僕をここに呼んだのは誰だい? 話をしようじゃないか」
声を張り上げる必要は無い。
この場を作っているモノはこの場を支配しているだろうから。無駄に体力を使う必要は無い。ゆえにむやみやたらに動き回る必要も無い。待てばいい。
果たしてしばらく後―と言っても実際どれくらいの時間かはわからない。時間は必ず同じ速さで刻を刻むわけでもないしこの場の時間の進み方がわからないから。

―なんで 叫 ばない の

「叫ぶ必要なんてどこにあるんだ」

―なんで 溶け な いの

「溶ける?」
妙な声というか思念。
そういえば、この場で気付いた時上下左右もわからずまるで溶けるような感覚だったと思い出した。
しかし
「溶けるわけないだろう。意識もあるし喰われた訳でもない。「場」にいるだけで溶けるなんて聞いたことも無い」
実際、意識があれば溶けない。というか、溶けた所で意識があればいくらでも復活できる。妖怪の生命力を甘く見るものじゃな――
―ちょっと待て、この場を創っているモノはその程度のことも知らないのか?
ありえない。妖怪や妖精、魔族…ヒト以外のものであれば知識が無くとも本能的に知っていること。
では、ここにいるモノはなんだ?
ゆらりゆらりあおいいろ
靄がゆれているのがわかる。
周りの色は上から下まで真っ青だ。
水色なんだか藍色なんだかわからないが……

けれど妖気は感じない。
そうだ、仲間以外の妖気もなにも感じないんだ。ということは
「君は人間、か?」

―そう よ

「人間がなんだってこんな場を作り出したんだい?」

―ち がう  わた し つく  ってな いつく ったの は ようかい 

「妖怪?」
そんなばかな。ここにはなにもない。

―あなた が たす けてくれ ないか らわ たしこ こか ら で られな い

「なんだって?」

―あな たうそ つき

「ちょっと待て僕は初対面の相手に嘘つき呼ばわりされるようなことはしていないぞ」
鼠男じゃあるまいし、というのは置いといて。

―わ たしつか まっ たのに せん せいもと もだちも わ たしを たすける ためにあな たをよ んだのに

―なの にあなたた す けてくれな か った

―わたしこ こからでられないの に

ゆらゆら靄が集まるけれど形は見えないまま。
先生、友達。そういえば今回の依頼は小学校だった。
そこで何かあった。何か言われた。思い出せ。頭の中まで靄をかけるな。

そうだ思い出した。
生徒の一人が都市伝説を怖がって走って帰ろうとして車に撥ねられたと。
それで生徒達を落ち着かせるために退治屋(鼠男)が呼ばれて、結局は噂話の域を出ない子供の作り話で妖怪はいない・ということでケリがついたんだ。
そして、その事故にあった生徒の名前は
「キサラギ キョウコ…ちゃん?」

―そうよ そうよ たすけにきてくれたんでしょう? なのに ようかいはいないなんて うそばっかり! たすけてよ はやくたすけてよ!!

向こうの意識がはっきりしてきたのかかなり思念が読み取りやすくなった。しかし目の前の靄は相変わらず形を成さない。
幽霊にすらこの子はなれないのか。それともこの場を作るのに精一杯なのか。

―わたしは ここに とじこめられたまんまなの! はやくようかいを たいじしてよ! わたしをたすけてよ! 

―わかるでしょう ここはそらのかがみのなかなのよ このままじゃ とけてしまうわ

旻の鏡。
今回の都市伝説はたしかにそんなんだったな、とぼんやり思う。

このあたりは天気を司る神の社があった
しかしいつしか社は忘れ去られ、住み着いたのは妖怪
残されていた御神体の鏡を使い妖怪は次々人を飲み込んでいく
その御神体は天気を司る神にちなんで旻の鏡と呼ばれている
鏡に吸い込まれた人間は忽ち鏡に溶けて妖怪に力を与える
鏡に吸い込まれないためには、もうひとつの鏡で反射させればいい

まぁ、大体の都市伝説同様、回避方法まできっちり示されていて、生徒達は手鏡やミラーシールを持ち歩いていた。
そしてたしか、キサラギキョウコという生徒はその日鏡を忘れてきて、吸い込まれないように急いで帰ろうとして……

―ねぇ はやくたすけてよ そのためにきてくれたんでしょう

「助ける事はできないよ、僕にできることは君を成仏させる手伝いをすることくらいだ。閻魔様に道を開いてもらうから、早くあの世へ行くといい」
やれやれなんて面倒くさい。どうやら自分が死んだのは妖怪のせいにしたいのか。自分の不注意だろうに。

―どうして? だってわたしは わるいようかいに かがみにとじこめられたのよ ここからだしてよ!!
ようかいはいるわ だってわたしは とじこめられたんだもの

「何度も言うよ。妖怪はいない。君は妖怪とは関係なく死んだんだよ」

靄が濃くなり薄くなる。かなり動揺しているようだ。
しかし遠近感のかけらも無い。視覚だけに頼っていたら気分が悪くなっていただろう。
闇でもなく光でもない。ただの蒼、青、碧。一体なんだってこんな色をしているんだこの空間は。

―うそよ うそよ だってここは そらのかがみのなかだもの まわりをみてよ そらいろでうめつくされてるじゃない

なるほど、これは空色なのか。なんて虫唾が走る人間だろう。空は青いとでも思っているのか。本当に面倒くさいな。
「空色?バカを言っちゃいけない。これのどこが空色だい?」
ますます場が動揺していくのがわかる。うごめく、揺れる青い靄。しかしまだ実体にならない。あぁ、はやく固まってくれないかな。そうすれば閻魔様の所へ流すのに。
「君は夕焼けや朝焼けを見たことは無いのか?夜の星を見上げたことは?曇りの日は?雨の日は?」
いくらでも動揺してくれ。せめて幽体を認識できるくらいになればあとは簡単。
「ここは旻の鏡じゃないよ。君らの言う所の旻の鏡は天気を司るんだろう?なんでこんな青一色なのさ。ここは偽物だよ、君が創った―」

―違う!ここは旻の鏡の中よ!!妖怪がいるのよ!

ようやく姿が認識できた幼い子供。

純粋な子供。作り話と本当の話の区別がつかなかった幼い子。
自分の死を認識できなかった愚かな子。
そして…自分の死の責任を他のモノ(妖怪)に押し付けた卑怯な子供。

早く認めな、幼い子。
死を認めれば君をヒトとして送ってやれる。
「何度も言うよ。ここは君が作り出した幻だ。ここにはどんな妖怪もいない」
「違う違う違う!ここは鏡の中なのよ!早く妖怪を退治してよ!あなたも私も溶けちゃう前に」
あぁ、かわいそうな元人間。
そんなに恐怖に駆られたのか。
ありもしない噂話に。居もしない妖怪に。
作り話に怯えて苦しんで、そして死んでしまったのか。
なんて弱い生き物だろう。
体が脆弱なのは知っている。けれどこの幼子は心もこんなに弱いのか。
死を認められないまま、このままここで漂うつもりか。
「だって旻の鏡に吸い込まれたら溶けちゃうのよ、隣町の子供も何人も吸い込まれたって友達の知り合いが言ってたってミキちゃんが言ってた!」
「どこの誰だい。名前は?住所は?人間てのは葬式を行うんだろう。そんなに何件も葬式があったのかい?なかっただろう?それにそんなに吸い込まれたならどうしてここには君しかいないんだ」
「きっとみんなとけきっちゃったのよ!だから私が溶け切る前にたすけてよ!」
ゆらゆら再び青い靄。
せめて認めさせてから送ってやりたかったけど、しょうがない。
このまま手遅れになる前に送ってやらなきゃあまりに哀れだ。
「残念だよ」
道に送ってやりたかったけどもう時間切れだ。
穴に吸い込まれていく元人間の叫び声。
無理やり繋いだ冥界道。
あとは向こうの担当がどうにかするだろうよ。


「ねぇ、君」
聞こえないだろうけど
「どうして気付かないのかな。旻の鏡の妖怪は君自身だったよ」
正確には「なりかけていた」んだけど。
こんな空間を作り出して、半妖化してしまうくらいにはね。
幼い子供はたちが悪い。
いもしない妖怪を悪者にしたてるどころか、都市伝説を本物にしてしまう。
九十九神がいるように、モノに魂はよく宿る。
そして都市伝説への恐怖心が思念となって新しい妖怪を生み出すこともある。
まったく九十九神よりもたちが悪い。
九十九神は悪さはしないが(たまにはするが)、思念が妖怪化するとそれは人間にとっての「恐怖」の思念だから悪さばかりするようになる。
おとなしい妖怪なんてのは噂にも上らないから思念も集まらない。
それでも昔はよい妖怪も生まれたらしいが、現代生まれるのは悪鬼ばかり。

あぁ、本当に

「人間の方が妖怪よりもたちが悪いなんて」

哀しいね。可笑しいね。
君たち人間がいなければ生まれなかった妖怪もいるけれど、その妖怪に苦しめられている君たちはなんて滑稽。

しょうがないね、幼く愚かな人間が多いんだもの。
僕から言わせてもらえれば、バカはバカのままなんだよ。
だってバカを直す努力すらしないんだもの。
君もね。キョウコちゃん。
せっかく認めるだけの時間を上げたのに。
まだ誰も殺めていない君はヒトとして閻魔様の前に行くことができたのに、認めようともしないで半妖化。罪にはならないけどヒトとしては裁かれない。

さてと、僕もそろそろ帰ろうか。
風が流れる。青が流れる。道が出来る。
―――――空間が消滅する。

 

 

「鬼太郎?」
目を開ければ幼馴染と腐れ縁。幼馴染の手には父親が。
どうやらこちらの時間は経っていないらしい。
「どうしたんじゃぼっとしおって」
「なんでもありませんよ父さん」
幼馴染の手から僕の手に移った父に笑いかけ、それでも見てくるものだから
「ただ…人間は不思議だなぁ、と思っただけですよ。あんなに話が大きくなってるなんて」
見えないものは信じないと口では言いつつ信じてる。
そしてそれが良くも悪くも大きな力になる。
「ふぅ~む、子供は噂話が好きじゃからのう、またいづれこういった依頼も来るじゃろうなぁ」
「そうですね、悪鬼が生まれても困りますしねぇ」
「でも今回は噂だけだったじゃない」
生まれかけてはいたけどね。とは言わず笑うだけにとどめておく。
「前に生まれたのは口裂け女だったなぁ、あとジャンプ婆にテケテケ」
近年人間の思念から生まれた妖怪の名を腐れ縁が指折り数える。
人間に害が無ければ退治する必要も無く、生まれ出て定着する妖怪は少なくない。
しかし害があり力が強いとなると人間の手に負えなくなる。
人間が生み出したくせに、退治は人任せ(僕任せ)だ。
それを知っているこの腐れ縁は存在しない妖怪を仕立て上げて甘い蜜を吸おうとする。
こいつが騒ぎ立てなければ話が大きくならなかったという事例もあることはあるわけで…

とりあえず一発殴って黙らせて今度こそ森に帰ろう。

 

思いの強さで妖怪が生まれるというのならば、願わくば、僕らに被害が来ないことを祈るばかりだ。


Fin.

PR
Comment
Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
八神 帝様へ
大和 2010/11/05(Fri)11:25:23 編集
はじめまして。
天色もどうお話を紡がれるのかを楽しみにしていた色なのです。
幻想的な出だしから、二転三転していく展開。おまけに、女の子の思い込みが事件を生んだというのが、いかにも妖怪もののように感じました。
それに、旻の漢字をお使いになられた事が、凄いの一言なのですよ。この漢字には閔傷の義が含まれていると私が持っています辞典にはあるのですが、「あきぞら」(ちょうど今の季節)の呼び方もあり、鬼太郎の突き放したような行動にもこの漢字が付けられたという事で、女の子に憐れみを抱いていたのじゃないかという想像まで持てました。
ホント、有難うございました!
(これまたおかしなコメントですみません)
因果応報というか…!
矢野 2010/11/05(Fri)16:02:30 編集
人から生まれた化け物を、人ならざる者が退治しないと行けない…って言うこのオチが何とも言えませんよねっ!
すぐに結末が見えるわけではなく、大和様のおっしゃる通りに展開が次々に起こるというこの構想も本当に脱帽ですっっ…!
やっぱり最後の親子の会話が私とても好きでして……///
八神様、本当にすばらしい作品を有り難うございました!
八神 帝様
珠歌 2010/11/05(Fri)21:15:51 編集
はじめまして。

本気で恐怖を感じました。
ひとつの事を信じ切って生まれた悲劇。読み終わってもずっとゾクゾクしっぱなしでした。

人間が勝手に創り出した妖怪、今も何処かで生まれているんじゃ…そんな事さえ思ってしまいました。
とても魅力的なお話、ありがとうございました


ありがとうございました
八神帝 URL 2010/11/20(Sat)01:59:38 編集
なかなか来れなくて返事も書けなくてすみませんでした。
感想をいただけると思ってませんでした、本当にありがとうございました。
>大和様
旻の字を使ったのは偶然ですが、そんな意味があったんですね、勉強になります(というか私が勉強不足;)ちょっとでも妖怪っぽさが出ていたのなら幸いです。
>矢野様
どうしても人間を絡ませたくてこうなりました。やっぱり妖怪は人間を斬り捨てられそうでられないものだと思うので。一番蜜に関わっていたのは戸田ですが、松岡も野沢も高山も距離を測りながら関わることは辞めないと思ってます。
>珠歌様
きょ、恐怖を感じていただけましたか!ありがとうございます!
他の作品と比べてホラーっぽさが足りないかと心配したんですが、良かったです。


多分いつもどこかで誰かの何かの思念が生まれて消えていると思います。拾えるかどうかは運次第。それらは力が弱いから。
そんな雰囲気を感じていただけたのであれば嬉しいです。
お目汚し失礼いたしました&ありがとうございました。
  HOME   565  563  562  561  559  558  556  555  554  553  552 
プロフィール
HN:
shino
性別:
非公開
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
カウンター
忍者ブログ [PR]