2008/07/28 (Mon) 23:56
嗚呼またか。
力無く落ちる手。唯だらりとその重さを自分に委ねる…手。
アムルは静かにその手を体の側に横たえた。
穏やかとも言い難い表情で、その人の体は徐々に硬く硬く…冷たくなっていく。
嘆息する。瞑目する。
――また、救えなかった。
静かに横で「ご苦労様」という仲間に、アムルは力無く微笑んだ。
リタイア:::
いつになく静かな夕食だった。
月はなく、唯不気味にじりじりと発光する陰惨な雲が空を覆い尽くしている。風もこの日ばかりはひっそりと身を潜め、身じろぎしなかった。食べ物を咀嚼する耳障りな音と、食器同士がぶつかり合う音だけが静寂を打ち破る。
まるで我慢大会だ。一番初めに白旗を揚げたのは、フェニックスだった。
「やっぱりアスカの料理は最高だよね!」
アスカがほっと息を漏らした。第二の脱落者はアスカだった。
「だろお?この財政難で我ながらよくやってると思ってるぜ~」
ティキがそんな彼らに軽く鼻を鳴らす。彼すらも逃げた。逃れた。
「塩気がたりねぇ」
「どこの姑だよ」
途端盛り上がる。そこの空気だけ明るい。笑顔が戻った。
アムルはじっと見つめる。きれいで明るくて、温かな三人の空気の向こう側を、静かにただ見つめ続ける。
「――どうしたの、アムル」
フェニックスが思案気に尋ねてきた。アムルはちらりと彼を見る。彼は柳眉をへなりと下げて、アムルの瞳をじっと見つめる。アムルを見つめる。そしてティキとアスカを見る。“それ以外”は見向きもしない。
具合が悪いの? まだ、気にしてる…? 尋ねるフェニックスにアムルはようやっと気付いた。
違う、逃れた訳ではない。
彼らは退場者じゃない。元から参加などしていなかったのだ。
アムルは微笑んだ。自然唇の端がつり上がった。
大丈夫よ。
フェニックスはまだ腐心げにアムルを見つめる。アスカが場を和ませようとアムルに料理を追加した。ティキが珍しく「無理するな」と優しい言葉を掛けた。
全てが明るい。
果たしてあれらはこの光に誘われるのか。それとも輝いて見えるのは自分自身か。
いずれにせよ。
――自分は退場など出来ないのだ。
アムルは膝を抱えた。
三人が談笑する。その遙か後ろ。瓦礫の合間。墨で塗り固めた様な闇の中。炯々と光る無数の目玉。
違う、あれだけじゃない。
彼らと自分を取り巻く無数の体。じりじりと近付いては、決して一線を越えようとしない不安定な存在ら。
その中の一つと目が合って、アムルは小さく嘆息した。
貴方も来たの。
それは確かに、先程病院で無くなったご老人の顔だった。
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本当はSBM漫画版をご所望だったのに、私の能力不足でアニメ版に…
おまけにアニメ版。
こちらはギャグ…?
リタイアAW::
「でね、その病院の人が~…」
「もう!いい加減止めてよマリアっ!」
「―――何やってんだお前ら」
「ティキ!グッドタイミングだよっ、マリアが怖い話して僕のことからかうんだっ!」
「怖い話って…」
「だってフェニの反応めっちゃくちゃ楽しいんだもん!ティキも見ていきなよ。本当に面白いから」
「怖い話じゃなくて僕の反応を楽しめと…」
「なっさけねー奴だな。男ならびくびくせず話を聞け」
「だってだってマリアの話ってめっちゃくちゃ怖いんだ!」
「私の話は秀逸だよ。ティキも聞いてく?」
「心霊現象なんてくだらない…幽霊信じるなんて今時の小学生でも少ないぞ」
「いや信じるも何もっっ…」
「あれ、ティキったら自分が集まりやすい体質だって事知らないの?」
「―――…」
「ほらあ…」
「隣にいるのってもしかして前の戦闘で知り合いになった人?そこにいるお婆さんは誰かな…あ、もしかしてティキのおばあちゃんだったりする?あ~なんか後ろの奴は見覚え在るんだけどだれだったかな~」
「―――…」(振り返り。…無論、誰もいない)
「ま、いいや。それでね、確かにその人病院で無くなったはずなんだけど…」
「―――悪い、頑張れ、フェニックス」
「えええ!?やだよ置いて行かないでよティキっっ!」
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きっとマリアは全然気にしない。
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