自転車::
通学路の途中に一本の大きな橋がある。
人通りも多ければ自転車の通行量も半端じゃない。
わざわざ自転車用の車道も用意されている程だ。たまにそれに気付かず歩道を行く自転車がいる。歩道は狭い。歩行者二人、並んで歩くだけで道が塞がれる。
そんな道だから、自転車のやつらは歩行者に大層迷惑そうな顔をされながら、頭を下げ下げ道を行く。歩道と車道の合間にしっかりと柵が立てられているため、いったん入ると自転車は出られなくなるのだ。
今私は自転車に乗っている。
普段その橋を自転車で渡ることは無いが、今日ばかりはどうしても急ぎの用があって自転車を利用した。
珍しく今日は人もいなければ、自転車の姿もない。たまに自動車が喧しいエンジン音を立てて通り過ぎるだけだ。
登校時の朝と、下校時の夕方辺りが混雑時だ。
今は昼時なので、人通りは少ない。
悠々と橋の下をくぐる川に目の上流に目を向けながら、自分は歩道を行く。
向こうからトラックが来たのだ。自転車用の車道があると言え、トラックの脇すれすれを行くのは些か怖い。
トラックが床を抉るような大音量で自分の横を通り過ぎる。
そうして誰もいない歩道を行く私の後ろに、別の自転車が来たようだった。
音は無かった。
唯何となく後ろに着かれたな、と感じた。どうも急かすようにぴったりと後ろを付いてくる。
その人もわざわざ歩道を選んだのか。
私はちらりと横目で後ろの様子を確認した。
そして一気に自転車のペダルをこぎ出した。
…待て。
待て待て待て。
あり得ないあり得ないあり得ない。
それはすぐに私の視界に入った。
それは私の隣に並んでいた。
この歩道は先程も言ったとおり、狭い。歩行者二人並ぶだけで精一杯だ。自転車が並べるはずがない。
そう、それは“向こう側”にいた。
飛び降り自殺防止用のフェンスの向こう側。音もなく滑らかに、道無き空間を移動していた。
待て待て待て。
あり得ないあり得ないあり得ない!
私は全力で自転車を漕ぐ。
柵の所為で車道には逃げられない。
唯もうこの橋を渡りきるしかない。
私は逃げる。全力で逃げる。
橋はまだ終わらない。