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夢捨て場
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2008/08/11 (Mon) 00:31

ミクロホラー祭第6弾!
今回も自作、「水たまり」です。

とうとう夏も佳境に入って参りました!!!(謎!

皆様、後二週間でこのミクロホラー祭も終幕でございますっっ!!
夏休みの終わりくらい矢野のヘボ企画に乗ってやるかという方!是非是非投稿してくださいっっ!!

それではミクロホラー祭第6弾↓↓↓

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水たまり::


 私はわらび餅が好きだ。
 夏になると私の家の付近を、一台のトラックがわらび餅を売りにやって来る。
「わらび餅 冷たくて 美味しいよ」
 わらび餅売りのおじさんは、既に私の顔を覚えている。
 必ずと言って良い程、私の家の前を通り過ぎる。
 そのたびに私は外に飛び出て、わらび餅を買うのだ。
 きんきんに冷えた、半透明のわらび餅。
 艶やかで、柔らかくて、少し氷の欠片を載せて食べると美味いのだ。
 きなこをまぶして、縁側でゆっくりわらび餅を咀嚼するのが私の夏の楽しみだ。

 その日も私はわらび餅を買った。
 いつもならすぐにわらび餅を分けてくれるおじさん。
 しかし今日は珍しく、暑い日差しの中汗を拭いながら私に話しかけてくる。
「面白いものを見たよ」
 おじさんはそう言って、世間話とも言えぬ…変な話をしてきた。

 それはこの様な話だった。
 こんな燦々と日が照った、暑い日だったという。大きな入道雲が、蒼い空の中仁王立ちで立っている。
 蝉の声が煩い。唯立っているだけで、じっとり汗が滲む、そんな日。
 おじさんは水たまりを見つけた。たった一つ、さほど大きくもない、雨の日なら何処にでも出来るような、水たまり。
 はて、とその時おじさんは思ったという。
 何せここのところにわか雨の一つも降らなかったのだ。周りを見ても水たまりなどそこに一つだけ。からからに乾いた地面に、その水たまりは非常に異様な物に見えた。
 おじさんは興味本位に水たまりに近付いた。そしてその時、水玉に小さな波紋がぽつ、ぽつと出来るのを見て、思わず空を仰いだ。
 雨か。降り出したか。
 しかし雨の気配は全くない。頭を捻るおじさんは、この時気付いたのだ。
 雨は水たまりの“向こう側”から降っていた。
 のぞき込むと、水たまりの奥の世界は、今雨なのだ。全く同じようで、鏡のようなその世界は、天気だけが違っていた。
「それで、どうしたんですか」
 私はおじさんに尋ねた。それを見たおじさんは、一体どうしたのだろう。
 おじさんは笑って答えた。
「いや、特に何もせずそのままにしておいたよ。でも、そうだね、また見ることが出来たなら…」

 今度は思い切って、手でも突っ込んでみようかな。


 そうおじさんが言ってから、既に三年の月日が経つ。
 あれ以来、おじさんはわらび餅を売りに来なくなった。
 わらび餅が売れなくなったのか、それとも果たして、また水たまりを見つけて、まさか“向こう側”に行ってしまったのか…
 向こうの世界で、おじさんはわらび餅を売っているのだろうか。


--

 最近はスーパーのわらび餅ばかり食べています。
 

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