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夢捨て場
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2008/08/16 (Sat) 10:20

ミクロホラー祭第9弾!

なんと前回SBMアスカ主人公でssを描いてくださったサラサ様が、今度は一次創作で作品を提供してくださいました!!!
おおう! ミクロホラー祭もとうとう9弾までっっ…!!

緻密な描写で恐怖心を駆り立てる、サラサ様オリジナルの作品をどうぞご賞味あれっっ!!!
それでは、一次創作『手鞠』、つづきからどうぞ!↓↓↓

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 男が山中を歩いていた。まだ残暑も厳しい折だが、人里から離れた山中は、木々が織りなす間を通り抜ける風が心地いい涼を運ぶ。
男は足を止め、全身でその風を受け、運ばれてくる木や夏草や水の香りを胸一杯に吸い込んだ。

 
 てんてんてんまり…てんてんてまり…
 あいにやまぶき ひいろにくれない きんしぎんしでかざりたて…

 
風とともに、どこからともなく子どもの唄う声が聞こえる。
 
「へえ、手鞠唄か…この辺の子かな?今時珍しいな、毬つきなんて…」
 
 首を巡らすが、それらしき姿は見当たらない。もっとも、木々に隠れて見えないだけかもしれないが。
 ゲーム全盛のこの時代に、毬つきをする子どもの姿に興味を引かれた男は、その唄声に誘われるように、声のする方へと歩を進めた。
  
 
  おらのてまりのふるさには みながゆびさし わらいだす
  おとうにいうても しらぬふり  おかあにいうても しらぬふり   
 
 
 それにしても不思議な歌詞である。そういえば、わらべ唄というのは、そのときの心情や情景を表していることもあったなと、ふと思い出す。
  
 
  おてだま いしけり かくれんぼ すきなあそびはあるけれど
  やはり てまりに かてはせぬ 
  まるいかげに ゆれうごく きんしぎんしが いろをなす
  だけど おらのてまりに いろはない
 
 
 時々、ここぞという木の影をのぞいてみるものの、それらしい子どもの姿は見えず、また少し離れたところで唄声がする。そのたび男は山奥へ引き寄せられるように入って行った。
 
 
  ふるきてまりの かわりとて なかなかみつけられはせぬ
  おとうにいうても しらぬふり  おかあにいうても しらぬふり
  ふるきてまりの かわりにと まるいなにかを みつけましょ…
  
 
 ふと、唄声が途絶えた。手掛かりを失い男は足を止めた。辺りを見回すが、やはりそれらしき唄声の主の姿はない。
戸惑った男は、聞こえてきたとおぼしき方向に足を踏み出すと、軽い感触に当たった。
見るとそれは手鞠だった。それこそ、木目込み人形の少女が手にするのにふさわしい、今の時代には珍しい型のものである。
 
「こりゃまた、唄にふさわしいくらいの古さだな」
 
 呟き、それを拾い上げてしげしげと眺める。手鞠は芯に布を丸く巻きつけ形を整え、その上から幾何学模様に幾色もの糸で飾りつけられて出来ていた。今手にしているものは、唄の歌詞の通り、飾り糸は殆ど擦れて色褪せ、地となる布も綻びや黄ばみが見えた。
先ほどから唄う子どものものだろうか。そう思って再び首を巡らせてもそれらしき人影はおろか、気配すらない。木々に紛れて手鞠の行き先を見失ってしまったのか。
 
「お~い、君の手鞠はここだぞう~、お~~い…」
 
 呼んでは返事を待つ。何度かそれを繰り返したが、ただ自分の声が木々に吸い取られるのみ。
ここにきて、ようやく男は異変に気付いた。周囲の様子が男にとって見慣れたそれとはすっかり異なっている。気づかぬうちに踏み入れたことのない山奥に入り込んでしまったらしい。先を見通すことも出来ないほど木々が入り組んでいる。薄暗い静寂が広がる空間。生き物の気配すら感じられない。
男の頭に、それまで浮かんでこなかった疑問が次々とわいてくる。
どうしてこれだけ探したのに、唄声の主である子どもの姿は一向に見当たらないのか。それ以前に、こんな山奥で子どもが遊ぶなど不自然ではないか。いや、そもそも、これだけ離れていたのに、どうして子どもの声が聞こえたのか。それより何より、なぜ迷い込んだことにも気づかぬほど、自分は唄声の主に興味を持ったのか……。
すぅ…と、暑さとは違う汗がこめかみを流れる。
 
  
うふ、うふふふ、うふふふふふふふ・・・・・
  
 
静まり返っていた山中に、ふいに子どもの笑う声が響いた。慌てて辺りを見回すが、やはり人影はなく、ただ静けさが広がっているのみ。
言いようもない不安に駆られた男は、一刻も早くここから離れるべく、慌てて踵を返そうとするが、そのまま身体が凍りつく。気付いてしまった掌の違和感に、身体が小刻みに震え出す。
自分の手の中にあるものは手鞠のはずだ。布と糸で出来た柔らかいそれ。自分のその眼で、その手で、確認したはず。確かにそうだったはず。だが何故、今手にあるものは先ほどとは違う硬質な感触を伝えてくるのか。
ぎぎぎ…と音がしそうなぎこちない動きで手にしたものに視線を移す。掌から伝わってくる感触は気のせいだと、布の手毬があるだけだと必死に自分に言い聞かせながら。
 
  
「っひぃ!ひ、ひぃぃいいいいいいい…!!!!」
  
 
千切れんばかりに腕を振り、それを振り切る。そのままバランスを崩し、したたかに尻を打つ。しかし、そんなことを気にしている余裕など男には微塵もなかった。
驚愕に開かれた目に映るのは、地面に打ち捨てられた丸い物体。先ほどの感触の正体、それは色褪せた糸がからまったしゃれこうべだったのだ。
全身をガタガタと震わせながら、壊れたブリキの玩具のように、男は目の前に転がる物体から少しでも距離を取ろうと後ずさる。
 
  
「…………みぃつけた…………」
  
 
耳元でささやかれた声。唄声の主と同じ声。姿は見えない。いや、背後に気配は感じるが、振り返ることが出来なかった。
ふわり…と男の頭に子どもの小さな両手がかけられた。全身の体温を吸い取られるような冷たさだ。男の目が恐怖でさらに見開かれる。
 
 
  
「!!!!!!!!!!!」
 
  
 
 
 
いとうれし いとたのし あたらしきてまり
あいにやまぶき ひいろにくれない きんしぎんしでかざりたて
だいじに だいじに いたしましょう
いとうれし いとたのし てんてんてんまり てんてんてまり…
 
 
 
 
 
……その後、男の姿を見たものはいない。




--
ss by サラサ様
男の頭が古くなった時…また新たな手鞠を求めて、奴は彷徨うのか…!?
皆様! 不審な手鞠歌には十分にお気を付けくださいますようっっ!!!!
しかしながらこれをホラーと言わずして何をホラーというのでしょう!!
初めから流れる不気味な空気…それが後半に行くにつれて恐怖が絶頂まで襲いかかります!
サラサ様、本当に素敵作品ていきょうしてくださり有難うございますっっ!!!
さあ、ラスト一週間!
どんどこ盛り上げて行きましょう! ミクロホラー祭!!
 
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