ミクロホラー祭第13弾!
13…西洋ではあまり良いと言われぬこの数字…
ラスト三日に掛かり本腰でかかりますよっっ!!(でりゃああああっっ!!!)
今回は前々からリクエストがあった鬼太郎4期で、矢野自らがssを書かせて頂きましたvv
ちょっとギャグ調?
それでは、興味を持った方どうぞ♪
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バケネコ?::
「絶対、あれおかしいって」
ダイスケの声にチヒロとケイタが大きく頷く。
三人の視線は校庭の隅…気休め程度の遊具が置いてある場所に釘付けだ。
元々あそこは緑化運動だか何だか知らないが、大して手入れもせずに木がぼんぼんと好き勝手伸びているから、日当たりが悪い。夏でもずっと翳っている。
良い日影だと言うことは認める。
しかし、夏休みに入りほとんど人がいない場合は--不気味な異世界への入り口にしか思えない。
そんな薄暗い場所に、一人の少女がいる。
些か古びた印象を受ける白のシャツに、紅のワンピース。切りそろえられたおかっぱ頭は、うす紫色に鈍く反射している。
後ろ姿で彼女の顔はよく見えない。
唯おかしいのは解る。
遊具で遊ぶでも無く、誰かを待つ風でも無く、彼女は唯一人、一本の木の下に突っ立っている。
ここからだとよく見えない。
でも誰かと話している様だった。
…誰もいない、空間に向かって。
「昨日も来てたよな」
「可愛い、子だよね…」
「でも人間じゃない」
「人間、じゃない…?」
ぶる、と誰よりも恐がりのケイタが体を震わせた。チヒロはにやり、と唇を大きく歪める。
「ああ。オレ、あの子別の場所でも見たことあるんだぜ」
チヒロの言葉にダイスケとケイタはええ、と大きく声を出す。
あまりに大きな声が出たため、お互いの口を思わず押さえた。彼女は気付いていないようだった。
「商店街でさ、ぶらぶらしてたら、ほら、最近ケーキ屋出来ただろ? あそこから出てきたんだよ。ケーキ買ってたな」
人間じゃないのに、ケーキ食べるのか。
ダイスケの声にチヒロは「最後まで聞け」と唇を尖らせた。
「ケーキ屋出た時に、何だかめっちゃくちゃ汚い男がやって来てさ。そいつがあの子に何か話しかけたんだ。そしたらな、オレ、見ちゃったんだよ」
声をだんだん低くするチヒロに、ケイタが喉を鳴らした。「何を見たの?」
「目がこう、ぎっとつり上がって…口が口裂け女みたいにみしみし…と開いて…爪が伸びて、ぎらぎらした牙がこうっ…」
「よ、妖怪!?」
確か三組の誰かが、妖怪に攫われた事があると言っていた。
この街は妖怪が出るのだ。今時妖怪なんて、と思うが、三人は強ち嘘ではない事を知っている。何たってこの街にはあるのだ。おかしな事に巻き込まれ、困っている人間を助けてくれる正義のヒーロー…彼を呼ぶ術が。
「ああ。オレが思うに、あの子はきっと…化け猫だ!」
ダイスケが「化け猫もケーキを食べるのかぁ」と小さく零した。それを無視してチヒロは続ける。
「きっと、夜な夜な食料にするための子供を、ここに来て選んでるんだぜ」
「そ、そんな事言ったら…」
ケイタは涙声になって言った。
「お盆にまでなってここに来てるのなんて、僕らくらいだから…僕らが食べられちゃうに決まってるじゃないかぁ」
「だ、か、ら! 何とかするんだよ。ほら、手紙を出すんだ!」
些か興奮した様子で、チヒロはケイタに詰め寄る。
「妖怪ポストに。…ゲゲゲの鬼太郎を呼ぶんだよ!」
チヒロの声が妙に反響した。
ケイタに、ダイスケに、そしてチヒロ自身にもその声はエコーが掛かって、別世界から来た物の様に思えた。
それが前兆だったのか。それとも唯の偶然か。
後ろから掛かる声に、三人はそれこそ足が地面から離れる程飛び上がって後ろを向いた。
「僕に何か用かい?」
続いて聞こえる、からん、ころん。何の音?
聞き慣れぬ奇妙な音に、三人はごくりと喉を鳴らした。
夏故に影と日向のコントラストが強い。その…暗闇の中から、にゅうと姿を現した一人の少年。
お世辞にもきれいとは言えないぼさぼさの髪。好き勝手伸ばしているから、左目は隠れて見えない。唯世界を移すその大きな右目は…一体何を見ているのか解らない、とても不気味な瞳だった。
藍色の学童服。こんな真夏だというのに、その上から黄色と黒のしましま模様のチョッキを羽織っている。三人の誰しもが、それが昔ちゃんちゃんこと呼ばれていた物だと知らなかった。
しかし彼が履いている物には見覚えがあった。随分と使い古された--下駄。これが軽快な…しかしどことなく不気味な音の正体だったのだ。
暫く彼の姿を観察していたチヒロががたがた震える体を奮い立たせる。ケイタはチヒロの後ろに隠れて、その少年をじっと見つめる。とてもケイタは話せる状態じゃなかった。
ダイスケはケイタと同じくチヒロの後ろで震えているが、どことなく目の前の少年に興味津々と言った様子だ。
チヒロが声を絞り出した。その声は妙に震えていた。
「き、君が、ゲゲゲの、鬼太郎?」
「そうだよ」
彼はすんなり頷く。チヒロは続けた。
「じゃ、じゃあ、悪い妖怪を退治しているっていうのは…」
「退治…まあ、そんな所かな」
三人が顔を見合わせた。その顔に希望の光が宿る。
「じ、実はあそこにっっ…!」
ばっと三人同時に、くだんの少女を指さした。そしてそれを鬼太郎が目で追ったその時。
「ああ、あそこにいたのか」
少年が…何だか感情が欠落した様な、無愛想だった少年が、ふと唇を緩ませた。
何だか珍しい物を見たような気がして、三人ともあんぐりと口を開ける。
彼は普通に、隠れもせず堂々と出ていこうとした。
右手を挙げて、少女に向かって声を出す。
「猫娘…」
しかしそれを三人は何とか制した。
見事な連係プレイだったと三人は後々思う。背の高いチヒロは彼の口を塞ぎ、背の小さいケイタが彼の腕をひっ掴み、体の大きなダイスケが彼の体を後ろから引っ張る。
ずるずると引っ張り戻された少年は、些か気分を害した様に尋ねる。「なんだい?」
チヒロは彼女を指さして言った。
「あれ! 妖怪!」
「だろうね」
ケイタが続けて彼女を指さして言った。
「あれ! 化け猫っ!」
「違うよ、猫娘だ」
む、とした様子で鬼太郎は答える。今度はダイスケが彼女を指さして言った。
「人間じゃない!」
「そうだよ、猫娘だもん」
そして彼は話はそれだけかとばかりに各々の手を払って、彼女の元に行く。
少女はこちらを向いていた。気付かれたか、と慌てて身を隠すが、もう遅いような気もした。
遠目でも解るが、きれいな翠の瞳をした…その、可愛い子だった。鬼太郎に気付くと、手を振って彼の名を呼ぶ。鬼太郎もそれに手を振り返した。
「し、知り合い…?」
「な、仲間、だったの…?」
おそるおそる顔を出す。
二人は先程少女がいた木の根本に来て、何やら話している。
その時鬼太郎がふとこちらを振り向いた。
そして大きな声でチヒロ、ケイタ、ダイスケを呼ぶ。
「おおい、君たち」
三人は顔を見合わせた。
おそらく、鬼太郎があんな仲睦まじげなのだから、あの少女は悪い妖怪ではないのだろう。彼がいるから危険も少ないはずだ。だから。
三人はぴったり寄り添って、ゆっくりと近付く。
徐々にはっきりする。白い肌の少女はとろん、とした柔らかい微笑みを湛えていて、やはり可愛い。彼らを真正面から見ると、彼女はふわりと微笑んで首を傾げた。
一瞬鼻の下が伸びる三人だが、彼の言葉にはっと背筋を伸ばす。
「実はね、この子が君たちと遊びたいと言うんだ」
そう言って彼は、その後ろ…木の根本を示した。
目を向ければ、鬼太郎と…少女の後ろにいる一人の少年。白いTシャツに、青い短パン。見慣れた体操着姿の彼は、恥ずかしそうにもじもじしながらこちらを見ていた。
あれ、あんな子いたっけ?
ああ、影になっていたから気付かなかったんだな。
三人は勝手に納得して、それでも突然の要請に困惑しながら「ええと」と呟いた。
「その、だれ?」
チヒロが尋ねると、その子ははっとなって、蚊の泣くような声を出した。
「あ、あの、ボク、その…」
少女が彼の肩に手をやる。彼女の視線にちょっと勇気づけられたか、少年は先程より大きな声を出した。
「トミオ、です!」
そして彼が頭を下げた。
元気よく頭を下げた。
そして三人は見た。
ぐるん、と下げた頭。
露わになった後頭部。
…一本の大きな枝が、生えているかのように突き刺さっているのを。
***
絶叫が木霊する。
猫娘が声を掛ける暇もない。三人は脱兎の如く…それこそオリンピックの陸上選手も真っ青になるのではないかと思う程の速さで、逃げていく。転がるように。
ケイタが転び、それを支えながらダイスケとチヒロが走る。あまりに滑稽で、笑みすら零しそうになるが、それどころではない。
猫娘は非常に残念そうに肩を竦めた。
「人間てのは、意気地が無くて」
嗚呼失敬、君も元は人間か。鬼太郎もぼりぼりと頭を掻く。もそもそ、と髪の毛が動いて目玉が飛び出した。それも神妙に頷いて「全くじゃ」と呟く。
「それでいて好奇心だけは旺盛だから、困ったもんじゃい」
そして眉をへの字にする猫娘よりも、大層がっかりしたようすでトミオはしゅん、と項垂れる。
鬼太郎と猫娘は顔を合わせた。
しかしすぐに猫娘はトミオの手を取って、明るく言う。
「ね、私たちと遊ぼうよ」
鬼太郎が大きく足を上げて、その場で足踏みする。からんころん、と下駄がいつも以上に軽快な音を出した。
「かけっこなら、負けないよ」
鬼太郎が笑む。
するとトミオの顔に笑顔が戻った。
「待って、みんな呼んでくる!」
猫娘が何だかトミオ以上に張り切って拳を握った。スカートを翻して走り出す少女を見送る鬼太郎の横で、トミオは小さく「有り難う」と呟いた。
鬼太郎はそんな彼に微笑んで、しかし、と顎をさすった。
「化け猫ですって、父さん」
「鬼太郎、そうお前がカッカすることもあるまい」
トミオはそんな二人の会話に首を傾げる。
鬼太郎はそんな彼に、「こっちの話」と笑って肩を叩いた。
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記念すべき第13弾が…ホラーじゃねぇっっ…;;