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夢捨て場
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2008/08/20 (Wed) 18:59

ミクロホラー祭第12弾!

今回はわたくし矢野がお送りします♪
五期鬼太郎…と言うより猫娘…。

こうなったら意地でもきりの良い15弾までは行きたい所っ!!

それでは鬼太郎ss、「プール」、興味ある御方はどうぞvv


↓↓↓

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プール::


--…誰もいないかな。

 プールカード片手に一人で歩く。

…いないだろうな。今日そんな暑くないし。

 どんより空を覆って、太陽を隠す雲を見上げる。
 何だか憎らしい空模様だ。

--でも、泳ぎたいし。

 何が何でもこの夏は、25メートル泳げるようになるのだ。

 

 …握り締めるプールカードは、夏休み開始から今日まで、誰よりも多くのスタンプが押されていた。

 

***

 

 稔は呆然とその光景を見た。
 確かに聞こえる喧騒。
 フェンス越しに垣間見える水しぶき。
 走り回る水着姿の子供達。

 何だ、たくさんいる。
 みんな来てる。

 いそいそとサンダルを脱ぎ捨て、汚い階段を駆け上る。
 気怠げな監視員のお兄さんが、こちらを見て手を伸ばした。握り締めてあとが付いた、プールカードを差し出せば、その人はぽん、と「出」のはんこを押してくれる。驚く程鮮明な、「赤」で。
 礼を言って更衣室に駆け込んだ。
 む、と立ちこめる熱気。
 元々水着は履いていたので、もう後は脱ぐだけで良い。
 バスタオル、ゴーグル、そして水泳帽。
 準備は万端。

 さあ行くぞ。

 更衣室から飛び出せば、わっと広がる青空。
 強い日差し。水がその強い光を反射する。目が眩むような輝き。

絶好のプール日和だ。

 絶叫上げてプールに飛び込む少年を、怒鳴りつける監視員のお兄さん。
 もぐりっこしよう、と女の子達がプールの端に集まっている。
 足だけ水につけておしゃべりをしている子もいる。
 第6コースは泳ぐ練習をする人の為のコースだ。きれいな列を作って、クロール、平泳ぎ、背泳。みんな練習している。
 自分の目的はその第6コース。
 ぶる、と手足を振って、バスタオルを掛けに走る。
「走るな」
 注意されて早足に。

 バスタオル掛けはフェンスのすぐ側、プールの縦脇に設置されている。
 いつもがらがらのバスタオル掛けは、木陰にある物だ。プール脇の大きな桜の木。今は瑞々しい緑の葉を、自慢気に振り乱す桜の木。
 この時期は毛虫やら虫が酷いので、誰もそこには掛けたがらない。だから空いている。今日もそうだ。
 虫がいないことを十分に確認してから、バスタオルを掛ける。
 よし、泳ごうとゴーグルに手をやった。その時。

「入るの?」

 不意に掛かった声に、稔は辺りを見渡した。
 首を回し、体を回して四方八方を見ても、知人の姿は無い。ついでに、自分に話しかけたそぶりの人間も見当たらない。
 はてさて空耳か。首を捻る稔に、小さな笑い声が降りかかる。
 そして稔は気付いた。
 自分たちに影を為す、巨大な桜の木。その葉と葉の暗闇に、金色に光る二つの目。

--猫。

 思わずぎょっとした。
 違った。
 人だった。
 益々ぎょっとした。
 桜の木の枝に、腰掛けているのは女性。
 橙の髪に、桃色のリボン。ひらひらと振る足は白く長く、自分よりは確実に年上と見る。
 まず何でこんな所に人が。
 混乱に目を白黒させる稔に、彼女は再び尋ねる。

「プール、入るの?」

 こんな天気なのに。

 彼女はそう言った。
 何を言っているのだろう。こんな絶好のプール日和に。

「---あんた、誰?」

 怪訝な顔をして尋ねれば、彼女は艶やかな唇を弓なりにして答えた。

「私? 私は、プールの監視員」

 じゃ何で木に登ってるの。
 また尋ねれば彼女は飄々と答えた。「よく見えるから」。

 稔は唇を尖らせた。
 何が何だか解らない。ちょっと頭がオカシイ人かも知れない。いいや、プールに入ってしまえ。
 ゴーグルと帽子を着けながら、水に飛び込もうとした彼に、その人は突然厳しい声を出した。

「待ちなさい」

 振り返る。彼女は細い指をピンと立て、その場でくるりと円を描きながら婉然と微笑んだ。

「まずは準備体操」

 思わず「ちえ」と舌打ちする。
 日向は暑いから、その変な人の足下に来て、準備体操をする。
 さあ良いかとばかりに相手を見上げれば、またきれいな笑みを浮かべてくるりと彼女は円を描いた。

「シャワー浴びて」

 しっかりね。
 ちゃんとちゃんと、頭冷やしてらっしゃいな。

 訳の解らない事を言う。
 苛々としながら稔は彼女を睨め上げた。彼女はまだ微笑んでいる。
 でも確かに、シャワーを浴びないと行けないな。
 不意にそう感じて、稔はシャワー室に行った。
 蛇口を捻る。今か今かと待ちかまえていた水達が、今だと号令を掛けて襲いかかってくる。ああ、その何と冷たいことか。
 あれだけ暑かった体が、あれだけ火照った体が、一瞬で冷める。
 がちがちと歯が鳴る。

 嗚呼寒い。寒い。

 早く日向に行こう。暖まろう。
 シャワー室を飛び出す。
 飛び出してはたと気付く。


 今日、何日だっけ?


「8月15日」


 頭上から声が掛かった。
 見上げる事は出来なかった。
 目の前の光景に愕然として。

「お盆休みよ」

 付け足すようにそう言って、そのお姉さんは嗤ったようだった。
 稔は唯凝視する。
 すっかり冷めてしまった体を、ぶるりと震わせる。

 

 あんなに混雑していたプールには、稔以外の誰もいなかった。



 呆然と立ちすくむ稔を嘲笑うかのように、空からぽつぽつと雨が降り出す。

 監視員と名乗った彼女がくすくすと笑った。



--

でも今日は20日です。
 

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