2009/08/10 (Mon) 08:06
10幕越えあざああああああああああっっっす!!!!
へへ、10作品越えると何か漱石さんに勝ったような気がして鼻が高いですねっっ笑
さて、お待ちかねMH祭~夢草紙~ 第11幕!
なんと再び倉元しんご様がラストスパートに駆けつけてくださいました!
しかも前回の「甘美なる夢を、貴方に」の鬼太郎side!!
おっっとこ前戸田が見る夢! あの日の事実が明らかにっっ!
「つづきは~」からご覧ください。
あの時彼は、彼女の側で……
[何時か見る夢を、君に]
声が、聴こえた。
その声は善く知った声で、解らないはずがない位で、なのに、その声は泣いていた。
暗い闇の中に居たのは声の主である幼馴染みと、何かドロリとした物体。どちらも自分には気付かずに見つめ合っている。不意に幼馴染みが自分の名前をソレに告げた。
違う。違う、違う。ソレは俺じゃない。俺以外の奴なんか見るな。
ソレが幼馴染みに腕を伸ばそうとして、怯える様にたじろぐ幼馴染みに向かって叫んだが、何故か声が出ない。首に手を当て必死で呼ぼうとしても、何か冷たいものに喉の奥でせき止められている。その感覚は、紛れもない、恐怖。何に対しての恐怖か解らないが、只目の前の光景が酷く恐ろしく感じた。
糞、なんで出ねぇんだよ。
云おうとしてもその罵倒も喉から出ない。幼馴染みを見れば、やっぱり泣いていた。
「―――猫、娘」
理解し難い恐怖を押さえ込んで絞り出した声と共に、視界がブラックアウトした。
「――…夢か」
半瞬遅れて隻眼が開かれて、溜息を一つ。頭を掻きながら上体を起こし、卓袱台の上を見れば、父親はまだ寝ていた事に安心した。窓を何と無しに見ると、もうすぐ夜明けなのか、東の空が白んで見える。空は狂おしい程美しいが、それに反比例する様に眉間は深く皺を刻んだ。
何と、気分を害する夢だろうか。自分以外の奴を見る幼馴染み。思い出すだけで腸が煮え繰り返しそうだ。
「猫娘…」
呟く声は朝の空気の中へ消えていく。暫く只ぼうと、何処を見つめているのか解らないが、あの不快な夢がやけに鮮明に脳内に焼き付けられ、吐き気がしそうだ。
(なんで、泣いてたんだ)
夢の中の猫娘は泣いていた。自分が知らない顔で知らない色の涙で。彼女の全てを知っている気でいた自分が愚かに思えた。
ぐっと奥歯に力を込めて自身の思考を押し込む。そうすれば幾分か楽になれるかも知れないと、浅はかな考えが浮かんで。だが、そんな事で楽になれる訳もなく、薄暗い天井を見上げた。
「……会いてぇ、な」
そう口に出した途端、胸の奥でつっかえていた何かがすっと落ちていった。
会いに往けば善いだけの話だ。
立ち上がり、茶碗の側でまだ寝息を立てている父親に微笑み、小さな声で往ってきます、と囁く。下駄を履き、静かに家を出ていった。木の葉が擦れる音共に、甲高い声が小さく気を付けてな、と云ったが、それが聴こえたかは定かではない。
澄んだ朝の空気を吸うのは何時ぶりか。普段から早起きとはとても云えない時間に起きている為、こんな空気を吸うのは本当に久し振りだ。
気付けばもうアパートの近く迄来ていて、何時もより道程が短く感じる。幼馴染みが居るであろう部屋を見ると、妖気で彼女はもう起きている事に気付いた。起きているならば、自分の妖気に気付く筈だが、一向に顔を出さない幼馴染みに痺れを切らす。小さく舌打ちすると、まるで脚にバネでもあるかの様に部屋の窓迄飛んだ。窓から見えた彼女はやっぱり起きていて、バツが悪そうに布団を畳んでいる。
「猫娘」
小さく呼んでも返事はなく、変わりにぴくりと身体が反応している。仕方ない、と溜息を一つ吐き、窓を開け、呆れた様に云った。
「何シカトしてんだよ」
声に気付き、振り返る猫娘の口から自身の名が発せられ、心臓の奥がどく、と一際大きく伸縮する。それでも表情だけは冷静に。特に悪怯れる訳もなく部屋の中に入れば猫娘は呆れた様にお茶の準備をしに台所へ。壁に立て掛けてある卓袱台を部屋の真ん中へ持っていき、まるで自分の家の様な振る舞いをする。暫くすると湯呑みとお茶を持ってきて、それぞれの湯呑みに入れていく白い手が薄暗い部屋で一際目立つ。手に取ってしまえば、彼女はどんな顔するだろうかと考え込んでいるいると猫娘の淡く透き通る声が耳に届いた。
「……で?」
「ん?」
余計な事を考えてて返事が一瞬遅れたが、彼女は気にせずにどうして来たのかを聴いてきたから、当たり前の様にお茶を啜りながら答えた。
「お前が俺を呼んだんだろ?だから来てやったんだよ」
そう云うと猫娘は機械がエラーか何かを起こしたように動かなくなってしまった。見開かれた目は彼女自身の中を探るような感じで、自分の存在が彼女に忘れられてる様な気がして。何か又黒いものが喉の奥に引っ掛かる。実に不愉快な感覚だ。
未だに固まっている猫娘の白くて細い手を取ったら僅かにひく、と反応する。素で可愛い、とか、思っちまったじゃねぇか。その流れで自分の口元へ持っていく。
「恐怖なら俺がもらってやる」
俺は、君の白馬の王子様にはなれないけど。
(君を守る騎士になら、なれるかも知れないから)
君は何時か現れる王子様を待っていれば善い。君だけは笑っていて。
そんな届きもしない酷く利己的な馬鹿らしい願いを唇に乗せ、それでも届いて欲しいと切に、彼は願った。
彼女が何と無く苦しそうに泣いている様な気がして、急に居たたまれなくなり、その場を離れる。来た時と同じ様に窓から帰ろうとして、一瞬振り向き、きっと彼女には永遠に届かない言葉を、
「―――――」
云った時にはもう猫娘の瞳は閉じられていた。とん、と窓辺を蹴って、夜明けから逃げる様に鬼は消えた。
それでも、彼は願わずには居られない。
どうか、あの娘が笑って居られるように。幸せであるように。自分が、その幸せを守れるように。
何時か、
(あの娘を幸せに出来る者が現れるように)
ふと、昨晩見た夢を思い出した。
嗚呼、そうか、あれは。未来の。
考えるだけで体感した事もない恐怖が襲う。あの、醜く浅ましく、あの娘に手を差し伸べた化物は、
「俺か」
これから見続けそうな悪夢を、隻眼の鬼は、薄く嗤った。
夜は完全に明けて、鬼を蔑む様に輝いていた。
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戸田の半妖という設定故に、猫娘を永遠に守ってくれる存在を求めながら、それまでは自分が誰よりも側で守っていたいという願望があるのではないか、と言うのがしんご様の今回のテーマでした。(うっほいなんて大人な戸田!! ウチの戸田もこの男らしさ見習えよ!! お前勝手に妖怪になっちゃったし!!笑)
騎士戸田! しんご様、他に類を見ない格好良さを有り難うございました!!
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